任される現場がすこしずつ大きくなって。
自分の成長が楽しい

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 ここからは場所を応接室(壁に掛けられた、ホームページにも載っている創業時代のモノクロ写真が目を惹いた)に移しての古屋さんのインタビュー。美大とかの出身かなぁと想像していたが、新卒入社前は大学駅伝で有名な東洋大学で心理学を学んでいたという。

「よく言われます。それで、なんで花なの?と。大卒で、お花のことは何もやっていない素人であっても採用してくれる会社だったというのが、いちばんだったかも……」

 1988年生まれ。就職氷河期で、飲食やアパレルなど希望を絞らずエントリーシートを出し「就職するんだ」という気合でたどりついたのが「花」だった。「だから花が大好きというわけでもなかったんです」と肩をすこしあげる。

──きょう一日、仕事の様子を拝見していると、花屋さんの現場は意外とガテン系なんですよね。

「そうなんです。わたしが入ったときは男性が9割ほど。同期が12人いた中で女子はわたし一人。台車に載せたり、積み込んだりするのを見てもらったらわかると思うんですけど、けっこう体力も求められます。でも、いまはだんだんと女子の比率が高くなってきているんですよね」

──古屋さんは華奢に見えるんですが、女子だからといって助けてもらえない?

「すごく重たそうにしていたら手伝ってくれたりしますけど。女子だから、というのはないですね。ほかの花屋さんだと、作るのとトラックに運ぶの、現場に行く人というふうに分業されているところもありますが、『ユー花園』は一人でやるのが方針なんですよね。だから、どんどん腕の筋肉がついてきています(笑)」

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━━現在勤続9年目。それだけ続いているということは仕事が合っているということですよね?

「続けていられるのは、作ったものをご葬家さんが見られ、反応が現場でつかめるというのは大きいかもしれないです」

──それはホールなどで設営している間のことですか?

「いまは、完成した状態になって来られるように時間を設定しているので、作業中は葬儀屋さんがいるくらい。ご葬家さんをお待ちするときは、(葬儀社のスタッフに映る)スーツでお待ちするので、わたしのことは判られていないと思います」

──挨拶をするというようなことも?

「基本的に、ないです。そこは葬儀社様がメインで、わたしたちは脇役というか、『わぁ、お花がきれい』と喜んでもらえたら、ひそかに良かったと思うくらい。葬儀社様によっては『この人が挿してくれたんですよ』と言ってくれることもありますが、一割くらいかなぁ。紹介してもらわなくても、笑顔でお花を見てもらえたら、よかったなぁと」

──わたし、性格がナナメなのでつっこんでしまいますが、9年ものベテランになると、喜んでもらえることじたいはもう慣れっこですよね。逆に喜ばれないと困るというか。そうするとモチベーションはどこにあるのかなぁと。

「う、うーん……。たしかにそういうところはありますが、自分が任される現場がすこしずつ大きくなってきている。もう最初は出来なかったことがイッパイあったんですよ。入社して間もない頃は小さな祭壇しかやらせてもらえなかったのが、だんだんと大きな祭壇を担当させてもらえるようになって。自分の成長が楽しい。きょう、この仕事をやりきれたというのはあるかもしれないです」

──なるほど。わたしの書く仕事でいうと、最初は原稿用紙3枚程度の記事を仕上げるのに一週間かかっていたんですね。そのときは雑誌を広げ、30枚の記事をどうやって書くのか見当もつかなかった。フルマラソンを完走するように思えていたのに似ていそうですね。

「ああ、そうかもしれないですね。入社したときは、まさか自分がこんな大きな仕事を担当できるなんてまったく思いもしなかった。それが出来るというのはモチベーションになっていると思います」

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──入社前は花の知識はなかったということですが、技術は先輩が教えてくれるものなんですか?

「わたしが入ったときは、まだ見て覚えろ的な職人気質があったんですよね。いまは教科書があって、検定(AFFA生花祭壇技能検定)が出来て、そのための合宿とかで先輩社員が講師となって理屈を教えてもらえるんです。

 わたしが入社した当時は、そういうものが何もなくて、出来る人と出来ない人の差が激しかったんですが。いまは、ある程度のレベルまでの上達は早くなりました。まだここ三、四年のことなんですが。試験を受けるための練習にも先輩が立ち会ってくれたりするので、うらやましいです(笑)」

──技術的なことがわからないのですが、花祭壇をつくるのに「上手い」とそうでないのとの差はどこに出るんですか?

「たとえば、花で曲線の面をつくるときにガタガタして、きれいなラインにならない。お花を見せないといけないのに、向きがそうなっていない。挿すときに何度もやり直す、とかですかねぇ。あとは時間。上手い人だと一時間でつくれるものを、三時間かけてしまうとか。生花祭壇は、午前中につくり、昼には積み込みし、夕方までに設営をし終える。どうしても時間勝負なところがあるので」

──挿してからときおり、後ろに下がって確認をされていましたが、あの動作もすくないほうがいい?

「そうですね。挿すときも慣れていないと三回くらいやり直したりしていましたね。ちょっと長さがちがうなとか。うまい人だと、それを一回で決める」

──以前、父の葬儀を実家で葬儀をしたんですが、花屋さんが来られて祭壇をつくられるのを見ていてカッコイイなぁと思いました。スピーディな仕事ぶりを見ていて、職人さんだなぁと。

「迷いなくテキパキ仕上げていくというのは、そうかもしれないですね。でも、お花ってこれが正解というのがないんですよね」

──正解がないとたしかに迷うというか、探しますよね。古屋さんは、カタログにないものをつくってほしいというオーダーもあるんですか?

「以前やったものだと、『海の波』をイメージしてつくってほしいというのがありました。人によって、波のイメージがちがうので、そういう場合当社ではCG室といって、曖昧なものをCGで画像に起こす部署があるんですね。紙にプリントしたものをお見せしながら確認してもらい、祭壇にしていく。最近だと、わたしがデッサンに書き起こしたラフスケッチをもとに修正しながらやりとりする。その二つのパターンがあります」

 確認のやりとりは、喪主さん宅に伺い、葬儀屋さんを交えて何回かやりとりをしながら行う。古屋さんは、そうしたオリジナルの祭壇も担当している。

──確認のやりとりは葬儀屋さんとするんですか? それとも喪主さんと?

「葬儀屋さんのこともありますが、ご自宅に伺って葬儀屋さん、ご家族さま、花屋の三人ということも。そういうときに、『よかった』と言ってもらえるのは嬉しいですよね。何回もやりとりをしないといけないので大変ではあるんですが」

──古屋さんの場合、そういうオリジナルの祭壇を担当するのは年にどれぐらいあるんですか?

「私が担当させていただいている葬儀社様の場合、多い時に月に4、5件ぐらいですかね。一年くらい前から、やっとそういうところも任されるようになったんですけど」

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