<トップインタビューvol.18 株式会社鎌倉新書 代表取締役社長COO 小林史生氏>
1984年に仏壇仏具業界向け書籍の出版業としてスタートした株式会社鎌倉新書。2000年に葬儀に関する総合情報サイト「いい葬儀」を開始。2003年には「いいお墓」「いい仏壇」へと幅を広げ、「情報加工業」として供養に関する総合プラットフォームとして成長した。
その後、2015年に東京証券取引所マザースに上場、2017年には同取引所一部に市場変更している。超高齢社会におけるシニアの課題解決企業へ、更なる進化を目指す。鎌倉新書の進化の秘密と、今後の展望について、今年4月に代表取締役社長COOへ就任した小林氏にお話を伺った。
企業理念に惹かれて、鎌倉新書への入社を決めた
━━社長に就任されて、今のお気持ちとこれからの抱負についてお聞かせいただけますか?
そうですね、社長就任前から代表取締役としてビジネス全般を見ていましたので、実質的な役割は変わっていません。会社の5年後、10年後のあるべき姿や大方針をデザインするのは会長でありCEOである清水がリードし、そのあるべき姿に対して無数の手段からどうやって最短距離で進めていくかの事業戦略は私が担う形で進めております。
━━鎌倉新書に入社される前は楽天株式会社にいらっしゃったとか。
新卒で商社でトレーディングの仕事を2年ちょっとやっていました。でも大企業でビジネスするよりも外に飛び出したいなと思い始めたときに、たまたま転職雑誌で楽天という当時インターネットのベンチャー企業を知りました。
最初、築地魚市場のインターネット?と思ったのですが、"インターネットで世界を変える"というキャッチフレーズがとても印象的で。どんな会社かちょっと覗いてみたら、いきなり三木谷社長がいて面接でした。まだ100人規模のベンチャーの自由な雰囲気に魅了されて、気づいたら転職していたという感じでしたね。
━━楽天時代はどのようなことをされていたのでしょうか?
楽天には16年いたんですけど、最初の8年間は楽天市場で営業から始まり、いくつかの事業部長をやらせていただきました。その後、国際部に異動し、ECの国際展開を推進し、その後、海外子会社2社の立て直しでアメリカで合計8年。
このときは課されたチャレンジの大きさや、日本とアメリカの文化の違いもあって、毎日髪の毛が全部なくなるんじゃないかというぐらい大変でしたが、自分自身のビジネスパーソンとしてのターニングポイントになりました。本当に学んでその場で実践するしかないというか。周りの方々に恵まれていたから色々やり切れたんだなと思いますが、振り返れば楽天には本当に感謝しかないですね。
日本に戻ったあと、しばらくプラプラしていたのですが、鎌倉新書前社長で前職の大先輩の相木さんから、すごく面白い会社があるので、ちょっと遊びに来ないかって声をかけられたのが鎌倉新書を知ったきっかけです。
━━海外でビジネス経験を積まれた後に、「供養」を軸とした会社を選ばれたというのは少し意外にも思えますが、鎌倉新書のどういった点が魅力に感じられたのでしょうか。
鎌倉新書で働きたいなと思った1つ目は社会的意義。終活において高齢者とそのご家族が直面する様々な課題を本気で解決しようとする企業の姿勢。前職の楽天の時もそうでしたが、ビジネスで苦しい時に最後まで踏ん張れるかどうかは、そこに社会的意義があるかどうか、だと思います。
2つ目は、マーケットとしての魅力。シニア向けビジネスは、今の日本で数少ない成長産業と言えます。そして高齢化社会が先進国の中でも最も進んでいる日本でうまくいけば、世界一と言えるのでは、と思えた点も大きいですね。と同時に、その時は海外展開も本気でできると信じてます。
3つ目は、私自身が楽天でやってきた、お客様と事業者様をつなぐプラットフォームビジネスの経験を、鎌倉新書でも活かせること。
でも、やっぱり一番刺さったのはこの会社の理念です。「私たちは、人と人とのつながりに「ありがとう」を感じる場面のお手伝いをすることで、 豊かな社会づくりに貢献します」ということは会長の清水も常々言っていますし、社内にもバーンと掲げています。
とはいえ、その理念をビジネスとして実現するのってなかなか難しいと思うんですよ。でもそこに本気で取り組んでいる姿勢をすごく感じたのは大きいです。
一見して相反するようなことをどうやって成立させるかにビジネスの醍醐味ってあると思っています。例えば売上とお客様満足度、短期と長期の課題。一見矛盾するものを併せ呑みながら打ち手を打っていくことは経営として重要だと思います。私もまだまだのレベルですが。
━━実際に入られて、業界全体が見えてくる中でどういう風に感じられましたか?
最初、「いい葬儀」を担当して、前職と似ている点もありました。楽天では初め、楽天市場に出店されている百貨店各社を担当していました。当時(2000年初頭)は百貨店さんから見ればインターネットはまったく重視されていなくて、例えば楽天スーパーポイント導入を勧めても自社のポイントがあるからと受け付けてもらえませんでした。でも今では各社のポイントサービスを取り入れて活用していかなければ小売業は生き残れないような時代になっていますよね。
この業界でも、楽天にいる時に感じたのと同じような変化への“うねり”を感じます。そういう意味では類似性もあるんですけど、一方で業界独特の変わりにくい部分や、自分たちですぐに何とかできない変化とか、両方感じる部分はあります。
また、お客様のために日夜問わず真摯に取り組まれている葬儀社様が日本全国に多くいらっしゃって頭が下がる思いの連続です。同時にそういう頑張る方々のビジネスのお手伝いをしたいと思える点も、楽天市場の出店者様との関係に通じる点があります。
━━だからこそ面白い?
そうですね、そこは知恵を使って方策を考えて。1日で変えることはできないかもしれないけど少しずつでも前進しようとすること、あとはお客様のために本当にそれをやったほうがいいのかどうかという視点で事業を考えるようにしています。
当社の強みは、
第三者としての立ち位置とお客様センター
━━2020年1月期の決算では連結売上高32.6億円(前期比30.3%増)、営業利益8億円(前期比7.5%増)と、ともに過去最高を記録。Webサービスも各々好調に推移しましたが、何がポイントでしたか?
ある大きな施策が奏功したというよりは、さまざまな取組みの結果だと考えています。私たちはビジネスの因数分解と呼んでいますが、売上=セッション×転換率×紹介率×成約率×客単価×頂く手数料としたとき、それぞれの要素に対して細かく打ち手を繰り出す方法を取っています。
基本的にプラットフォームビジネスの考え方は同じだと思っています。たくさんのお客様を呼び込んできて、転換率を上げる。そのためにサイトの色一つ変えるのも僕らは何十回何百回とトライしています。お客様センターも現在は大多数を内製でやっている理由は、新しい打ち手を試みるときに明日すぐ変えられるようにするため。いかにPDCAを速く回していくか。その中で得た新たな気づきとかチャンスを把握しながら、この2年進めてきました。
もう一つこだわっているところは、事業者様とはビジネスパートナーとして一緒にやっていきましょうというスタンス。我々だけではお客様に良いサービスを提供できないわけですし。
━━この数年で手の打ち方とか方向性は変わってきていますか?
英語でLow hanging fruit(ローハンギングフルーツ)って言いますが、下の方にぶら下がっている簡単に取れる果実=簡単で効果がある打ち手、は色々実践してきたので、ここからは難易度が上がってきます。だからこそ、各サービス、中期の視点でお客様の求めているものは何か、原点に立ち返って打ち手を考えようとしています。
例えば「いいお墓」に関していうと、今は霊園探しのサイトですが、地方では「そもそもお墓は建てるもの」と認識されていることが多く、最初から石材店を探す方も多い。そういった方々へも間口を広げるために石材店さんやお寺で選べる軸のページも一気に追加していこうと思っています。これは石材店様にとっても喜んでもらえるお話だと思います。
各サービス、今までは問合せを頂いているお客様に対応していたので、結果として関東のシェアは結構大きいのですが、地方はまだまだこれから。地方の提携事業者様を獲得するとともに、新しい切り口でお客様につながっていきたいと思います。もうひとつは、キャンペーンなどお得感を得られる情報など、お客様がサイトから得たいことを足していくなどですね。
お客様が求めているものが何かを考えるにあたっては、なんとなくの感覚で判断してしまうと危ないので、今期からネットプロモータースコア(以下、NPS)を活用しています。鎌倉新書のサービスを推奨してくれる人から推奨しない人の数を引いてスコアを出すのですが、その中で見えてきたのは、推奨者のほうが非推奨者よりも購入単価も成約率も高いということです。
「いいお墓」「いい葬儀」「いい仏壇」「いい相続」をご利用いただいたお客様からの声は、毎月何百件と集まってくるんですけど、僕も毎日楽しみに全部見ています。良い点だけでなくて、資料請求したら大量に送られて来ちゃったとか、いきなり電話して来られたとか、電話の対応が悪かったとか、良くない点もつまびらかになるので、それらをちゃんと解決していく取り組みも進めています。重要なのはお客様の声を聞くってことだと思っています。
もちろん、これ以外にも様々な調査結果や情報ソースを見てはいます。ただ、NPSを使うことで自社の強みが何か、立ち戻るきっかけになりました。たとえば、お墓事業ですと「第三者として有益な情報をご提供していること」に強みがあるってことが再確認できましたし、あとはお客様センター。ここもお客様からすると「いいお墓」を選ぶ重要なキーになっています。
「いい相続」は、ご遺族と葬儀社様
双方の満足度を高められるビジネス
━━前期は「いい相続」が予想以上の売上の伸びだったとか。
「いい相続」は、まずお客様の声を聞くところから始まりました。業界でいう「アフター」と呼ばれる葬儀後の課題解決に潜在ニーズがあるんじゃないかと仮説を立て、「いい葬儀」を活用された方に直接ご連絡をさせて頂いて、お困りのことについての対策を考えたのがすごく大きかったですね。
相続のビジネスもお客様と士業のマッチングという意味では、これもプラットフォームビジネスです。弁護士、司法書士、税理士など士業の方々それぞれに得意分野があります。葬儀社様が「アフター」をサポートされる場合は当然、提携している士業の方をご紹介されると思います。しかし、紹介された士業の方々の得意分野が必ずしもそのお客様の課題解決につながっていないことって結構多い、という点に着目しました。
鎌倉新書の場合は、まず相続コンサルタントがお客様の要望をお聞きして、そのお客様にあった得意分野を持つ専門家をご紹介します。またご遺族が故人と離れた場所にお住まいの場合などは、必ずしもその地方の士業さんがベストとは言えませんが、我々の場合は全国の士業の方々と提携しているので、そのご遺族にとって最適な地域の専門家を紹介をすることが可能です。そして、相続コンサルタントがその面談に同席します。
━━お客様の不便さを確実に解決できる仕組みが、成果につながったということですね。
そうですね。それに、このサービスは葬儀社様にとってもメリットがあります。鎌倉新書がお客様と士業の方との間に立って課題を整理し、最適な士業の方々を紹介することで、お客様も非常に喜んでいただけます。また結果として、葬儀社様が直接仲介されるよりも圧倒的に成約率が高くなり葬儀社様が得られる手数料も大きくなる。遺族側の負の解決と葬儀社様側の収益、両方の満足度を高められるビジネスだと考えています。
最近は、アフターは丸ごとすべて鎌倉新書さんに任せるよって言っていただいている葬儀社様もものすごく増えているんですよ。
とは言え、今のビジネスモデルがベストだとは思っていないので、お客様の課題を解決しながら、もっと良いビジネスにしていきたいです。
【プロフィール】小林史生(こばやし・ふみお)
1974年2月、石川県生まれ。2000年に楽天株式会社へ入社。グルメ関連事業の責任者を歴任する。2008年より買収した企業2社の再生のため、計8年間米国に駐在。2社目では社長として陣頭指揮を執る。2017年、株式会社鎌倉新書へ入社。執行役員として「いい葬儀」を担当。その後、2018年に取締役、2019年より代表取締役COOを経て、2020年4⽉に代表取締役社長COOに就任。
▼株式会社鎌倉新書公式サイト
https://www.kamakura-net.co.jp/
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