「なります。めちゃくちゃ、やる気になります(笑)」

 小柄で童顔。入社4年目の高山さんは、葬儀の仕事といえば年配男性が主導するとの先入観からしばしば「あなたで大丈夫?」という目で見られる。そのときに燃えるのだという。

 式場に到着すると黒のパンツスーツ姿の高山さんはまず祭壇を撮影、社内共有のチャットにあげる。告別式の現場は会社に寄らず「直行」、そのため写真を「共有」した時間が始業となる。

 故人と家族との「最後の時間」を司るのが高山さんの仕事だ。名刺の肩書きは「葬祭事業部 エンディングプランナー」。

 開式の1時間半前に会場に到着し、支度を整えご家族を待つのが決まりだが「2時間前に」をこころがけている。遠方から来られる会葬者がぽつんと待っている姿を想像すると「落ち着かない」のだという。

──祭壇の飾り物などは前日にセットされているものですか?

「お通夜があればその前になりますが、今回は『一日葬』なので前日に準備しています」

 通常「通夜」「告別式」の二日がかりが基本だが、簡素化が進む昨今は告別式のみ「一日」で終える形式や火葬場の炉前でお別れをする「直葬」が増えている。

 秋も深まるこの日、高山さんが担当したのは「一日葬」。タブレットを操作し、小さく音楽を流した。

「大きな部屋だとミキサーにつないでスピーカーから流すんですが、小部屋なので直接タブレットで」

 プレイリストにセットしてあるものは様々。フィーリングミュージックからJポップ、ジャズ、美空ひばりまで「故人さんの好きだったもの」に対応する。

「とくにこだわりがない場合は、ゆったりした音楽をかけています」

──たとえばロックが好きなひとだと?

「流しますね。好きだった曲をピックアップして。打ち合わせの中でお聞きしておいて、出棺のときにはこの曲にしましょうかとか。

 これはわたしが担当のご家族ではないのですが、(故人が)音楽をやられていた方だったので、『最初で最後の単独ライブの場所にしましょう』と飾りをシックにして、出棺時もサプライズで仲間の人たちが演奏する中、棺を送り出すということをしていましたね」

 支度を始めた高山さんの背後で手順を眺めていると、コルクボードを取り出し説明してくれる。カメラマンが目にとめたのは、クリップと押しピンだった。

画像: 大切な写真にあとをつけないためのちょっとした工夫。

大切な写真にあとをつけないためのちょっとした工夫。

「いまはこういう可愛いのがあるんですよ」

 写真を留めるのにピンで刺したのでは跡が残る。挟んだクリップを留める。ちょっとしたことだが、仕事をする中で覚えた心遣いだ。

──こういう文具は会社から支給されるんですか?

「当社ではサプライズ費(顧客に対して請求しない)という名目で、各葬儀に予算が設けてあって、『このご家族の想いをカタチにするためにはこの演出が必要だと思ったから予算を使いました』という裁量があるんです。

 たとえば、温泉が好きな人で『もう一回家族で入りたいと言っていたけれど』という話をうかがったら、温泉のお湯を汲んできて、お別れのときにお体を拭いてもらうとかいうことも」

──温泉まで汲みに担当さんが行かれるんですか?

「行きます。スケジュール的に行けないということなら代わりの誰かが。家族にとって必要だということなら行きますね」

 わざわざ行くの? 「はい」。スポーツ選手がハードなトレーニングをいつものことですからというかのようにさらっとした口調だった。

画像: お寺様の入場前に、司会の原稿を再確認。

お寺様の入場前に、司会の原稿を再確認。

 会場まわりの準備が整うと、原稿を再確認する。小さな式場では「司会」も担当者が行うことが多い。

「フォーマットはあるんですが、お名前の間違いがないように一回ずつ書いています。お寺様の入場前にもう一回確認して。そうしないと、言い慣れた言葉があると逆にイレギュラーなものがあるときに、つい口にしてしまいそうになり。たとえば、いまは式中に初七日法要もすることが多いんですが、ないときにも、つい言いそうになるんですよね。

 現場に出られるようになるまでに、司会の練習とかもするんですが、いまだに苦手です」

 この日は高山さんのアシストで、父親ほどの年配の男性がつき、スタッフは二人。会葬は近親者のみで「受付」もないため、このあとはご家族が来られると控え室に案内。「お茶だし」と、お寺様をお迎えという流れになる。

 しばらくすると、故人の姪御さんたちがやって来られた。故人は70代の女性で、十人ばかりのこじんまりとした告別式だったが、菩提寺の僧侶の読経が聞きなれない、リズミカルというかラップのようで部屋の外にも愉しげに聴こえた。

 にぎやかなくらいのほうが追憶の効果をたかめるのだろうか、出棺の際に中学生くらいの年頃の女の子が嗚咽しているのを目にすると、見ず知らずではあるが自然と手をあわせてしまう。

画像: 家族が違えば式の仕方もみんな違う。テーマがあって、そこから始まる。- はたらくひと Vol.2 エンディングプランナー

「仕事としては『事前相談』もあります。問い合わせ依頼があると、ご都合にあわせて出かけていきます」

 高山さんが勤める「アーバンフューネスコーポレーション」は、東京近県に111のお迎え拠点をもつが、自社の葬儀場は限られ、スタッフは提携する式場に出かけていくスタイルをとっている。ちょっと変わっているのは、「施行前ミーティング」という時間をとっていることだ。

「お式の打ち合わせが終わると、先輩と今回はこういうテーマで、こういうことをしようと考えていますと何人かで話すんです。いろんな人の知恵が入ることで、ご家族にとって良い時間にする。そのために担当者とそうでない人とで話し合うんです」

 さらに担当者は業務システム(MUSUBYS)に「施行前報告」をあげることで、各人が担当する葬儀内容を全社で共有するシステムをとっている。つまり、この日の高山さんが何処でどのような葬儀をしているのかは社員全員が既知だという。

「たとえば、テーマを『夫婦の再会』だとする。先立たれた奥さんのもとに、これからダンナさんが行きますよ。ということであれば、おふたりのお写真などを配置して、おふたりの再会を皆様にもイメージしていただく。

 また、フラワーリングというお花でできた指輪があるんですが、それを故人様の指におつけして、もう一つは棺にお入れする。お互いの繋がりを感じていただくためにそういったものを準備します」

──そうした細かな報告を毎回、社内で共有するんですか?

「そうです。全員が」

──ということは高山さんも、ほかの人が今日やっているお葬式について把握している?

「はい。先ほど覗きにきてもらった先輩が担当しているご家族が、どういうご家族で、どういう内容なのかは把握しています」

 こうした準備の入念さとともに、高山さんたちが行う葬儀の特色は「空間」の舞台演出にある。スマートフォンを使い、過去の施行例を選びだしてもらった。

 ホールでの葬儀ながら自宅のリビングで行われたかに見える写真を覗き込む。

「背後にあるのは『メモリアルスクリーン』といって、データをもとに当社でタペストリーに印刷しているんです。

 ほかにも秩父出身の故人さまで、ずっと帰りたいと話されていた。これはご家族がもっておられた秩父の風景のお写真をスキャンさせてもらい、一枚一枚分割されたものをボードに貼り付けたものです」

画像: メモリアルスクリーンを使って、故人の愛した趣味部屋を再現した例。 「趣味一筋の少年のようなお父さん」の思い出を笑顔で語りあう式となった

メモリアルスクリーンを使って、故人の愛した趣味部屋を再現した例。
「趣味一筋の少年のようなお父さん」の思い出を笑顔で語りあう式となった

「こちらの書斎は、前にあるモニターはホンモノで、実際の部屋もモニターが部屋の真ん中に置いてあったんですね。無宗教葬だったんですが、ホームビデオを見てもらいながら過ごしてもらいました」

──写真と実物との境目がわからないんですね。

「そうなんですよ。喪主さんは奥さんだったんですが、『あれ、あの絵を持ってきたの?』『いえ、写真です』というやりとりをしていました」

──祭壇を花で豪華に飾るのではなく、棺のまわりをお花で囲んでいますね。

「そうですね。あとは故人様が作っておられたペーパークラフトや模型を展示して。

 最初は、歯医者さんをされていたというので仕事をメインにしたものを考えたんですが、『趣味一筋の少年のようなお父さんだった』という話をうかがって、テーマを変更したんです。二階の趣味の部屋に晩年は上がれなかったというのを聞いて、それなら作ってみるのはどうか。金額はいただいている中で調整しますのでとご説明したら、お願いしますとなり、写真はドライアイスの交換にうかがったスタッフが撮影しました」

──いいアイデアだなぁ。どのくらいの予算で可能なんですか?

「お値段はタペストリー5枚で25万円。祭壇のお花で25万円となると、そんなに豪華なものではないんですよね。だったら同じ金額でメモリアルスクリーンにして、あとは御供花を配置しませんかとご提案させてもらっています」

──ねらいとしては、その場の「空間」と「時間」を大事にしようということですか?

「そうですね。桜が好きだったけど、お花見ができなかったという場合に桜の風景をというのは多いんですが、『こういう自宅の身近なものというのもいいね』というので、このときは社内でも話題になったんですよね」


This article is a sponsored article by
''.