「平凡な人生」の転機は「手に職をつけたい」と思ったからだという。エンバーマー認定番号0148。高校生のとき、母の葬儀で「湯かん」を目にした。不慮の事故。化粧で顔立ちがもどっていくことをただ見ていた。

画像1: わたしは、お顔を見て、やすらかに、やすらかにと思うだけで、ほかのことは考えない - はたらくひと Vol.1 エンバーマー

「ほんとうに、わたしでいいんですか?」
 笑顔で何度もそう言われた。自分にはドラマチックな出来事はひとつもないという。ポートレイト撮影のときに、自然に背筋がのびる。小学生の頃からバトントワリングをやっていたからだろうか。「さすがですね」とカメラマンが呼びかける。
「でも、油断をするとこうなります」と一瞬猫のように背をまるめ、すぐに姿勢をもどし「そこは意識しています」と口角があがる。
「エンバーマー歴7年」大屋佳南子さんの職場は神奈川県川崎市内にある。

 「エンバーマー」とは、遺体に殺菌防腐処置や複顔修復を行う専門職。日本遺体衛生保全協会(IFSA)の2019年7月の調査では、認定者230人中156人(男性64人・女性92人)が稼動している。
 前室で仕事着の「スクラブ」の上にエプロンを着け、長靴に履き替える。外科医が被るようなキャップを被り、手袋をはめ、防毒マスク、透明のゴーグルの「フル装備」に着替える。
 大屋さんの後ろから、わたしたちもマスクと手袋をはめ施術室に入る。2台のステンレスの寝台が並んでいる。ふだんの仕事の手順を説明してもらった。

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──寝台が二つということは、同時にふたりが施術することがあるということですか?

「ふたりが同時にしていることのほうが多いですね」

 声がこもり話しづらそうなのでマスクをはずしてもらう。担当したエンバーマーはひとりでメイクや着付けまでを行う。処置は「3時間以内」と決められているが、2時間以内におえることもある。技術差であるよりも「状態による」という。寝台に仰向けになったご遺体の鎖骨ちかくの動脈を探り当て薬液を注入する管を取り付ける。

 基本的な流れは決まっているが、細かい手順はエンバーマーごとにちがうらしい。「整顔(せいがん)」と呼ばれる顔の処置を早めにすることもあれば、仕上げと決めているひともいる。

 施術は「エンバーミングマシン」と呼ばれる器械を使用する。
 明かりを反射するステンレスの寝台は「エンバーミングテーブル」という名称で、ほんのすこし傾斜している。

「処置を始めて10分ほどしたら青白かった肌がほんのりピンク色に染まっていきます」

 処置をおえたご遺体はおおよそ4~5日で火葬される。IFSAの規定では「50日以内」とされているが、ドライアイスを当てなくとも、ひと月以上保全可能ということでもある。

 髪をシャンプー。全身を洗い清め白布で拭い、メイクにとりかかる。ドライヤーをあて髪がサラサラになるころには肌は色を取り戻しているそうだ。仏衣か遺族が用意した服を着せ、両手を合掌させる。

「たまに、これ、どうやって着せるんだろうというのもあります。でも3割くらいかなぁ、持ち込みされる方は。そのあたりは担当者によるのかも」

 ここでいったん休憩をはさんだ。気持ちの切り替えがしたくなったからだ。

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