「東京では、ちがうんですか?」
えっ!?という顔で聞き返されたのは、竹本学さん(株式会社メモリアルむらもとフューネラル事業部統括部長)。札幌市内のホールを案内していただいたときのことだ。
ビジネスホテルで朝食をとり「北海道新聞」に目を通していると、見なれない紙面があった。「訃報欄」だ。
インタビュアーである筆者の実家(庭付きの民家)を葬儀場として利用してもらうようにしたのをきっかけに、葬儀関連のルポの機会が増えたが、まだまだ知らないことが多い。地方紙の訃報欄もそう。
東京の全国紙だと社会面の片隅に、財界人や著名人のお悔やみ欄を目にすることはある。不思議なもので、ふだんは気にかけたりしないのに、お世話になったひとの名前を見つけることがある。虫の知らせとでもいうのか。ローリングストーンズの曲で出棺された編集者の葬儀に参列したのも訃報欄がきっかけだった。
10年以上前のことだが、はじめての無宗教葬で、次々と近しかった作家さんたちが突然亡くなった故人とのことを、祭壇に向かって語りかけるのを聞き、知らなかった一面に驚かされながら、いつになったらお坊さんが現れるのだろうと不思議におもったことがあった。僧侶が立ち会わない葬儀が知られる前のことだったので。
8年前に父が亡くなった際、彼の葬儀を真似て、香典の全額を国境なき医師団に寄付したことを会葬のお礼状とともにお送りし「いいことをした」つもりでいると、電話で「あんた、香典の半額返しは常識よ」と姉にキツーくいわれ、あらためて郷里の習慣どおりにしたことがあった。「なんだかなぁ」だった。
そんなことなどを思い出しながら、ほぼ全面が葬儀・告別式の案内で埋まった文字を追っていた。平日の朝刊である。故人の葬儀がどこで行われるかをお知らせするものだが、道内全域、地区ごとに分類。そのボリュームに驚いた。竹本さんに言うと、逆に冒頭の質問となった。
だれでも無料で掲載できる訃報欄
──東京や大阪だと、あの大きさはないですね。社会面の隅っこに、何日に親族のみで告別式をおえたという数行のものが何件か目にとまるぐらいで。
竹本さん(以下同)「そうなんですか。こちらでは年配の方は、まずあそこを最初に見るといわれるくらいなんですが」
──量に圧倒されたんですが、掲載情報は葬儀社さんを経由されるものなんですか?
「各葬儀社がご家族に確認し、載せていいということでしたら新聞社に連絡しています」
──あの「お悔やみ欄」は、毎日あれくらい載るんですか?
「きょうはどれぐらいありました?」
──下の二段くらいに「広告」が入っていましたが、ほかはすべてご葬儀の案内でした。
「それだと、多いほうです。通常は紙面の半分くらいです」
──葬儀会場の案内とともに、どこの葬儀社さんが施行されているのかもわかる仕組みになっている。家族葬を中心に扱われている、むらもとさんのホールの名前も載っていましたね。道内のすべての葬儀ではないのでしょうけど。
「(道内の)全葬儀数の三分の一くらいが掲載されていると思ってもらったらいいかもしれません。ただ、これも大変なんですよ。万が一、お名前が一字間違っていたりするととんでもないですから」
──それはそうですよね。掲載料金はどうなっているんですか?
「掲載については無料です。家族葬希望のお客様の場合、家族だけでこじんまりと執り行う方々が多いので掲載不可になりがちです。弊社としては載せていただけると社の宣伝にもなるのですがね…。」
竹本さんは葬儀の仕事に就いて10年になる。「お悔やみ欄」じたいは子供の頃から見慣れていて、全国共通のものだと思っていたという。
近年は「近親者」のみで行うなど葬儀の規模が小さくなり、都会暮らしをしていると会葬に出席する機会も減りつつある。加えて、わざわざ遠方の葬儀に出かけるなんていうことはめったにないだけに、生活圏での数少ない体験を「スタンダード」と考えがちだが、葬儀に関わるルポをしていると、葬儀の作法は土地ごとに異なるものだなぁと驚かされる。ベテランの葬儀屋さんほど、「よその地域のことは詳しくないので」と言われる。
たとえば長野や東北地方では「骨葬」といい、火葬後に告別式を執り行うのが一般的で、他県からやって来た会葬者が「いつになったら火葬場に行くのだろう」と首を傾げるという話はよく耳にする。
香典領収書や、葬儀会計専門のスタッフサービスも?!
そこで今回、竹本さんにホールを案内していただく合間に「北海道ならでは」のお葬式の仕方を教えていただいた。そのひとつが「領収書」だ。
「香典を出された人、お一人ずつ、名前と金額を記載してお渡しするのが慣例になっています。大きな葬儀になると、300から400はお渡しする。ご不要の方もいらっしゃいますが、ほぼほぼ出席された方は持ち帰られますね」
会場の受付で香典を差し出すと、その場で封を開け、金額を確認。そして領収証を発行する。そのため「領収書待ち」の列ができあがることもめずらしくないのだとか。その場で、金額を確認というのはドライにも感じられるが、以前わたしが勤めていた会社では、会葬礼状の封筒に金額を記して経理に申告していたことがあったので、会社関係の弔問には「領収書」が便利だとおもえた。
「領収書については、私がこの業界に入って間もない頃、東京から来られた方が驚かれたので、逆に『ないんですか?』と聞き返したのをよく覚えています」
──ちなみに「香典返し」とかはどうなっているんですか?
「一般の会葬者様に対しては、北海道で香典返しとして扱われている商品が、本州方面での粗供養品に該当します。
本州では四十九日の忌明け後、もしくは通夜告別式に即日返しとして、いただいたお香典の半額の商品をお返ししますが、北海道ではその風習がなく、お供えいただいたお香典の額面に関係なく1,000円くらいの品物をお渡しして、香典返しとしています。」
──金額に関わらず一律なんですか?
「そうです。当日にお渡し、後日あらためてというのはなくなりつつあります」
領収書への反応が意外だったのか、ふだん受付で使用している「香典帳」まで見せてもらった。卒業アルバムほどの分厚いファイルで、金額と住所が会葬者の名前とともに「これ一冊にまとめられる」というすぐれものだ。
──中に「決算書」という項目がありますが、これは?
「たとえばお香典が100万円集まりました。葬儀代は80万円、お寺さんは10万円でした、といった通夜と葬儀の収支をぜんぶ書きとめます。記帳するのは葬儀の受付会計専門のスタッフサービスさんで、金庫番の役割になります」
東京などでは親族の知人や友人が「受付」を頼まれるものだが、北海道では、葬儀の受付を取り仕切る専門の方がいるという。
「これも、もしかしたら北海道特有なんですかね?」
──こんな豪華な香典帳は初めて見ました。葬儀会計専門のスタッフサービスさんというのも。わたしが知らないだけなのかもしれませんが。
「まあ、それぐらい香典が多いということでもあるんですが。ただ、そうは言っても、だんだんそういう大きな葬儀も減ってきてはいます。
会葬者に出すお食事も、こちらでは家族だけでというのが一般的なんですね。たとえば親族が30人、一般100人が集まる葬儀があったとして、一般の会葬者は式が終わればそのまま帰られる。そのあと家族で食事となります。
家族以外の人を招くという風潮はないんですね。かなり親しい関係だと、残られるということはありますが。私が入った当時からそうで、かなり昔からそうだったと思います」
──このファイルブックは葬儀後に喪主さんにお渡しするんですか?
「そうです。終わったあと、喪主さんに弊社からお渡します。北海道全体で、こうしたものは使われていると思います。『ああ、あの人が来てくれていたんだ』と後日連絡をとられたりする。取って置かれると、父親のときはこうだったから今度はというふうな目安になりますし」
──うちの両親も、そういえばこういう豪華なものではないですが、名前と金額を綴った帳面を残していましたね。ところで、こちらは宗派でいうとどこが多いんですか?
「浄土真宗の東と西、それに曹洞宗。この二つで6割を占めるかんじでしょうか。うちは年間1300件くらいやらせていただいていますが、他のキリスト教になると年間10件くらいですかね」
広大な北海道ならではの、繰り上げ法要
話をうかがっていて「広大な北海道ならでは」だと思わされたのは、「四十九日の繰上げ法要」だった。
「ご親戚の方が遠方で、なかなかもう来られないというので、火葬を終えると、その日のうちに初七日と四十九日もやってしまうことが多いんです」
──初七日を一緒にというのは聞きますが、四十九日も、なんですか?
「ええ。ただ、お寺さんは、喪主さんには『これこれ、七日ごとにうかがいますので』とご案内はされる。つまり、集まれない人のためにそうしましょうというだけで。これは私が子供の頃、おじいちゃんが亡くなったときにもそうだったですね。20年くらい前になりますが。うちの家庭は信仰心があったので七日ごとにやっていましたが、ただいまはそんなにはしないでしょうね」
──都市圏では、僧侶が立ち会わない葬儀も増えていると聞きますが、こちらではお寺さんを呼ぶというのはどれぐらいの割合ですか?
「うちだと施行の2割が無宗教葬で、年々増えています。とくに『ウィズハウス』という家族葬向けのホールの場合、お客さんのほうからお寺さんを呼ばないでしますと言われることが多くなっています。今後もっと増えていくでしょうね」
これまでは「葬儀にお寺を呼ばないというのはありえない」といった親戚の声を気にかけることが多かったが、近い身内だけの「家族葬」が増えるにつれ、無宗教での葬儀の割合も増える傾向にあるようだ。喪主さんが若い世代に限られるのかというと、「もう年齢にかかわりない傾向になってきていますね」と竹本さん。
あと、霊柩車も北海道では、車輌に棺を載せられる「小型バス」のが多いのも特色だ。
──東京だと人口比に対して火葬炉の数が足りていないため「火葬場待ちで一週間」というのが珍しくないといわれるんですが。
「北海道は、そういうことはないです。というのも(札幌近郊には)9時から午後3時まで、一度に30件まで可能な火葬場が二箇所もある。ただ、いっときに火葬場に向かうバスが集中し、入りきれなくて行列ができるということがあるんですよね。これは7年前の話でニュースにもなりましたが、冬に道路が凍結して150台くらいのバスの列ができたことがありました。
あと、これも北海道だけなんですかね。棺の中に十円玉などの硬貨を入れる習慣があるんですよ」
硬貨を、棺の中のご遺体の脇、腰のあたりよりも下の位置に入れる風習があるのだという。焼けきるものもあるが、残ったものを遺骨とともに肩身として持ち帰る。
「こういう風習がありますが、どうされますか?と納棺師さんがお話するか、私たちがします。7割から8割の方は入れられますね」
金属の類を棺に入れないように注意を受けることが多いが、発祥は不確かながら、北海道や東北の一部では、死者が三途の川を渡る際に「六文銭」が必要とされてきた謂れにつながるものらしく、棺に銅貨を入れる風習がいまも残っている。焼け残った硬貨には「お守りや厄除け効果」があるとされてきたようだ。
──都市圏では住宅事情もあり、ホールでの葬儀が一般的となり、「自宅」での葬儀は少なくってきていますが、北海道はどうでしょうか?
「うちでいうと、自宅葬は全体の5%くらいでしょうか。ただ2、3年前だと1%もなかったのが、この2年ぐらいで急に増えてきています。というのも、在宅介護の増加とともに、自宅で葬儀をするというケースが多くなってきているんです。
あと、こちらでは家のまわりに鯨幕を張るとか豪華な祭壇を設けるだとか、そういうことはあまりしない。棺とちょっとした祭壇で、簡単に家でしたいというご要望も多いですし」
都市圏ではホールでの葬儀が中心となり、「自宅葬」の場合は逆にスタッフが出向かなければならないことから料金が割高になるケースもあるが、そうした「割り増し料金」も発生しないらしい。
──北海道内では、葬儀の形式はほぼ同じですか?
「そうですね。ほぼ一緒だと思います。ああ、そうそう、函館だけは違いますね。函館は先に火葬をし、あとで告別式をする。漁師町だからというのを聞いたことがありますが、諸説あって詳しいことはわからないです。あと根室もそうだったかもしれないですね」
漁師町ゆえというのは「出漁中は戻れない」という事情があってのこともあるようだが、ほかにも説があり、古くからのことで詳しくはわからない。骨壷の大きさは、東京などと同じ八寸もしくは七寸のもので全ての遺骨を入れる。
「お墓には、骨壷から出して入れることが多いです。土に還すということなんでしょうね。うちの家の記憶をたどると(カロートの)下は土になっていましたね。あと、納骨は季節によりますが、冬の時期は雪に覆われているので霊園に入れないため、だいたいゴールデンウィークのころにされることが多いですね」
取材・文責/朝山実
写真/大塚日出樹