働く側の視点を取り入れたからこそ
推進できた改革
──話をうかがうまでは、お年寄りはタブレットを使えない。無茶だなぁと。でも、そこが壁になるところが、孫世代との接点が生まれるきっかけになるというのが面白いですね。
「そうですね。話を戻すと、そういうことをやって目に見えて残業が減っていったんですが、ただ管理職の残業が減らない。彼らはプランナーとしての仕事をしながらも傍らで勤務シフトをつくっている。
葬儀屋さんは明日あさっての仕事量が決まっていないので、日々シフトをつくらないといけない。しかも残業を減らせと言われるものだからシフトがますます複雑になり、三人いたマネージャーそれぞれがシフトの作成に毎日2時間を費やしていた。
それを機械にやらせることにしたんです。システム会社と共同開発して、日にシフト6時間をかけてやっていたものが、いまは5分です」
なんとも「劇的短縮」だが、詳しく聞くと、現場スタッフ一人ひとりの特徴をつかんでいないとできないものだとわかる。たとえば施行の「難易度」に合わせ、配置するスタッフが選出される。各人に実績による「スコア」が付与され、スコア60点の人間は、難易度80点の現場に配属されることはないという。
「ただ人間ですから、先週このペアリングされた二人の間でいろいろあって、いまはこの二人の組み合わせはよくない。そういうことがあれば、もう一回シャッフルする。さらに、そこに勤務時間のデータも紐づいているので、いまうちは残業が月平均5時間ですが、規定の残業時間に到達するとその人間はシフトから外れるようになっています」
──すごいですね。その勤務シフトのシステムと並行して、仕事の分業も確立されたそうでが、それは一体でなければならないものだったのでしょうか?
「葬儀屋さんで、何で残業が起きるかというと、その日与えられた仕事以外のものが乗っかってくるからなんですね。
たとえば、自分がプランナーとしてアサヤマ家の葬儀の担当だとします。朝、出勤前にきょうは10時にうかがい、12時に祭壇を設営して、というふうに頭の中が働いていると、病院搬送の依頼が入り、人がいないからそっちに行ってくれないかといわれる。
それで搬送を終えて帰社。遅れを取り戻そうとしていたら、ホールに老夫婦がやって来られ、来館対応をしなければならなくなる。日々そんなことが起きて、結果残業が増える。であれば、プランナーにはそれ以外の仕事はさせない。搬送部とコールセンターと来館対応のコンシェルジュを専門職としたんです。そうするとプランナーはその日やることがぜんぶ決まってくる」
──仕事を特化させることでシフトは確立するということですか?
「そうです。ただ、そこにCSが微妙にからんでくる。ひとりの人間が最初から最後までメインで担当したほうが満足度は高い。これが二人、三人と変わっていくと下がっていく危険性がある。
たとえば同じ質問をしてしまう。もう前の人に言ったことだとか言われてしまう。それを防ぐために、細かい情報を共有。ナースステーションの引継ぎのようにしてやっていくように改めました」
──あと、パートの時間給が高いという話をお聞きしましたが。
「時給1500円ですね。一件の葬儀にスタッフは3人と決めてあり、プランナー、ディレクター、アシスタント。プランナーとディレクターは正社員。アシスタントは3時間勤務のショートタイマーになります。
プランナーはお通夜当日、たとえば朝9時に出勤し、アサヤマさんの家に行ったりします。午後2時になると、ディレクターが出勤してきます。そこで30分くらいかけて引継ぎをします。そこから2オペでまわし、5時にアシスタントが入る」
お通夜のピークタイムは、5時から8時。この間の三人体制をはさみながら、プランナーは通夜開始の6時に現場を離れる。ここから先はディレクターがメインとなり、二人が現場を担う。
翌日の告別式は、プランナーはタッチしない。別の通夜を担当。告別式はディレクターがメインとなる。
「パートさんの勤務は3時間なので、この日出られる人?という、この指止まれ方式を登録制でやっています」
──パートさんはキャリアのあるひとたち?
「いまのシステムを導入して二年になります。最初は研修をして仕事を覚えてもらっています。いま多いのは、ダブルワーカーの人なんですね。あえてショートワーカーをしたいという人もいるので、そういう働き方のメニューを提示していっています」
──1500円という設定は?
「働く側から見てどうかと考えました。3時間しか仕事はないとなると、時給1000円だと3000円にしかならない。バスとか交通費を考えたら手取りは限られている。1500円は出さないといけないかなと」
──うかがっていると「働く人」の視点を取り入れようとしていますよね。いい社長だなぁと。
「しっかり儲かっていますから(笑)。やっぱり、社員が辞めていくというのはストレスだと思うんです。会社を通じて自分を否定されるようなものですから。僕は、自分がストレスフリーでないといけない。だとすると、人が辞めない会社にするにはどうしたらいいのか。そう考えています」
いま社員の離職率は3%程度。「いっときの十分の一。最近、ほぼ辞めないですね」と表情がゆるむ。
社員の定着率が高くなったことで、村本さんは「新しい部門」つくりを次々と打ち出してきた。「僕は好奇心のかたまりなので、新しくやりたいことはいっぱいある」という。
──社員の採用ですが、経験者を選ばないようにしているとお聞きしましたが。
「(葬儀の仕事は)半年、一生懸命働けば蓄えられるものなんです。それを五年十年かじることで、ゆがみもでてくる」
──経験が逆に壁になる?
「昔は、経験者も受け入れていたんです。ただ、ほぼ辞めていく。それは、うちが葬儀屋っぽくないから。社風が。これが同業から入ってきた人にも居心地いい会社になってしまったら、うちの会社は終わりです」
──なるほど。おもしろいと思ったのは、前職が学校の先生だったひとや公務員の方もおられるとか。
「美容師、ソムリエ、警察官もいますよ。まあ、同業をかじったことがない人間であれば誰でもいいとも言えます。若い頃に世の中に迷惑をかけた人でもいい。それは同業が悪いということではなく、うちでは続かないということです」