印刷事業を主業とする廣済堂は、2020年1月31日、同社連結子会社である東京博善を3月末付で完全子会社とすることを発表した。これにより同社は、これまで60%にとどまっていた東京博善の売上利益を全て連結会計に取り込めることとなり、グループの財務状況の改善につながることが見込まれる。
東京23区の火葬の7割を担う老舗企業
火葬場といえば、全国的に見てもそのほとんどが公営だが、東京だけは異色。東京23区にある火葬場9カ所のうち、公営は2カ所、民営7カ所。そのうち6カ所を運営するのが東京博善株式会社である。日本で最も人口の多い東京23区における死亡者の7割以上の火葬を一手に引き受けている。
東京博善の創業者は牛鍋屋「いろは」を展開させた実業家であり政治家でもあった木村荘平氏。木村氏が1887(明治20)年に会社を設立し、日暮里村に火葬場を設置(後の町屋斎場)。棺桶をレールの上に載せてレンガ炉に入れる新型の焼却炉も彼が考案したそうだ。
参考:電鉄は聖地をめざす 都市と鉄道の日本近代史 (講談社選書メチエ)
明治後半以降、寺院の運営する火葬場が自治体運営に転換する流れが起こる中、1921(大正10)年に、新会社が経営を引き継ぎ、町屋、砂町、落合、代々幡の4つの斎場を事業所とする会社が設立された。これが現在の東京博善株式会社となる。
現在、東京博善は、町屋、落合、代々幡、四ツ木、桐ヶ谷、堀ノ内の6つの斎場にて火葬事業を展開している。2019年度の売上高は87億円、純資産額455億円。
図1)東京博善 過去3期分の業績
2017年3月期 | 2018年3月期 | 2019年3月期 | |
---|---|---|---|
売上高 | 8,221 | 8,658 | 8,745 |
経常利益 | 3,037 | 2,606 | 2,308 |
当期純利益 | 2,529 | 1,812 | 933 |
純資産 | 44,221 | 45,208 | 45,532 |
廣済堂の屋台骨を支える東京博善
親会社である株式会社廣済堂は、印刷業を祖業として1949(昭和24)年に創業。70年代から80年代にかけ、不動産開発、ゴルフ場経営、出版業を手掛ける企業などを次々に買収、事業の手を広げる。2000年には東証・大証一部に上場した。
東京博善との関わりは1985(昭和60)年に経営支援を開始したのが発端である。その後、1994(平成6)年7月に発行済株式の60.9%を取得、子会社化した。
廣済堂主力の印刷出版事業の業績は依然、厳しく
2019年3月期における、廣済堂の売上高は361億95百万円(前年同期比0.7%減)。経常利益は16億37百万円。
事業セグメント別に見ると「情報」セグメントは274億37百万円(前年同期比1.3%減)、経常利益は前年同期比26.7%減。新たに連結子会社となった人材事業の売上が寄与したものの、印刷出版業での受注単価の下落などが影響し、全体としては減収となった。
「葬祭」セグメントでは売上高87億45百万円(前年同期比1.0%増)、セグメント利益は四ツ木斎場の経費減少などが奏功し前年同期比6.2%増の26億78百万円。
図2)廣済堂 事業セグメント別売上高と前年比(2019年3月期)
売上高 | 前期比 | 売上高 | 営業利益 | |||
2018年3月期 | 2019年3月期 | 増減 | 増減率 | |||
情 報 | 27,797 | 27,437 | △360 | △1.3% | 減収 | 減益 |
葬 祭 | 8,658 | 8,745 | 87 | 1.0% | 増収 | 増益 |
その他 | 6 | 12 | 6 | 108.1% | 増収 | 増益 |
合 計 | 36,462 | 36,195 | 267 | △0.7% | 減収(↓) | 増益(↑) |
廣済堂グループの利益の97%を
葬祭セグメントが占める
廣済堂グループの2019年3月期におけるセグメント別の売上高比率は、情報セグメント76%、葬祭セグメント24%。一方、セグメント利益比率を見ると、情報セグメント3%、葬祭セグメント97%。つまり、廣済堂の屋台骨を支えているのが東京博善である。
図3)廣済堂 事業セグメント別売上高、セグメント利益(2019年3月期)
売上高 | セグメント 利益 | |
情報 | 27,437 | 86 |
葬祭 | 8,745 | 2,678 |
その他 | 12 | 2 |
合計 | 36,119 | 2,767 |
なお、廣済堂は2019年1月、土井常由社長と米投資ファンドが手を組み、MBO※を目的とした株式公開買付(TOB)※※を実施したことが話題になった。同年3月には旧村上ファンド系の南青山不動産によるTOBも実施されたが、いずれも不成立に終わっている。その後、同年6月の株主総会で土井氏は社長を退任し、常務取締役の根岸千尋氏が社長に就任している。
※MBO(マネジメント・バイアウト):経営陣による買収。会社経営陣が株主から株式を譲り受けるなどしてオーナー経営者となること。上場企業がこれを行う場合は、上場を廃止することにつながる
※※TOB:株式公開買付。ターゲットとする会社の株式を、証券取引所を介さず直接買い付ける方法
東京博善の独立性を担保しつつ
廣済堂グループの企業価値向上を
2019年10月上旬、廣済堂より株式併合を用いた東京博善の完全子会社化に関する提案が行われた。以後、関係者を交えて協議を重ね、2020年1月31日に両社間で協定書が締結された。東京博善は、3月7日に開催予定の臨時株主総会を経て、3月末を以て廣済堂の完全子会社となる。
協定書の概要は以下のとおり。
- 東京博善は、事業の特殊性を理解する第三者組織を結成し、廣済堂による重要事項決定時に予め諮問させること
- 廣済堂は、東京博善の企業価値は収益性だけでなく公益性・継続性・安定性も考慮して向上すべきものであることを理解し、経営の自主性・独立性を最大限尊重すること
- 廣済堂及び東京博善は、東京博善の企業価値向上が連結ベースでの企業価値向上に資するものと理解して、相互に最大限の協力を行うこと
- 廣済堂は、今年5月公表する予定の中期経営計画において、グループでのコアビジネスのひとつに斎場火葬事業を含むエンディング事業を加えること
- 廣済堂は、向こう10年、東京博善の株式を第三者へ譲渡・承継等してはならないこと
※ 株式会社廣済堂による当社子会社の株式併合に関するお知らせ記載の協定書の概要より一部抜粋
上記の他にも、斎場火葬事業以外の新たな事業創造に積極的に取り組むこと、今後10年で予定されていた設備投資は原則として実行すること、廣済堂は東京博善からの借入金を3月末までに完済することなど、さまざまな項目が定められている。
具体的な戦略などは、完全子会社化完了後に検討が開始されるとのことだが、両社は今後、東京博善の公共的使命や宗教的奉仕の精神を担保する仕組みを維持しながら、時代のニーズや将来の課題に対応できる経営体制の整備を進め、新たな事業創出に取り組むという。
▼東京博善 公式サイト
https://www.tokyohakuzen.co.jp/