トップインタビューvol.14 ディパーチャーズ・ジャパン株式会社 代表取締役社長 木村光希氏

 料理にたとえるならば、一品だけを提供してきた店がフルコースを扱うことで、その一品に対する理解がより深まるようなことかもしれない。死化粧を施し、ご遺体を納棺する「納棺師」が葬儀社ディパーチャーズ・ジャパンを起業して5年。代表である木村光希さんは、後進の納棺師の育成学校(「おくりびとアカデミー」)を運営もしている。

できるだけ早い段階で
故人様のケアに関わりたい

━━NHKの「プロフェッショナル」を見たとき、えらく若いひとだなぁという印象と落ち着き具合。さらに、映し出される葬儀がどれもシンプルで、ご自宅での葬儀の場面も、祭壇は飾りたてられたものでなく、僧侶の姿がない。葬儀というとあわただしいものだという思い込みに反して、ゆったりとした時間の流れが印象に残りました。

「じつは、立派な祭壇があって、お坊さんもいらっしゃっていたんですが、おそらくNHKさんの意図だったんでしょうね。製作者が伝えたかったのは、僕たちとご遺族とのやりとり、故人様が寝かされている環境ということかなと」

──なるほど。納棺師の仕事ぶりをくっきりと見せるためにあえて、ということだったのか。お葬式というと、お坊さんが読経されている後姿を思い浮かべがちなので、「ない」ことで、その特別さが際立ったということだったんですね。

「放送後、別の取材を受けるときにも、よくドラマティックな葬儀をしているかのように聞かれるんですが、僕らは当たり前のことを滞りなく、しっかりとやっていくことが重要なんですよね。

 ときには、各地でデモンストレーション的なパフォーマンスをしたり、ご葬儀の場でサプライズをつくったりすることもありますが、重要なのは、ご遺族と故人様が向き合える環境をつくるということ。だから、いま言われた印象じたいは間違いではないと思うんです。『ゆっくりと時間が流れたりする』そこを切り取ってもらったのが伝わったのでしょうね」

画像1: トップインタビューvol.14 ディパーチャーズ・ジャパン株式会社 代表取締役社長 木村光希氏

 木村さんを取り上げたNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」を見たのは1年ほど前。番組では終始真摯な対応が印象に残った。とくに、故人様の顔のシミや傷跡を化粧で完全に隠すのではなく、「記憶につながる」人生のあかしとして残すことを提案する。その考えに共感を抱いた。さらにいうと、若くて映画俳優とおもえるほどイケメンなことも。

 きっと、実直できまじめな表情でのインタビューになるだろうと予測していたのだが、対面した直後からのソフトな笑顔と気さくな口調がとても意外だった。

 木村さんの父親は映画「おくりびと」で技術指導を行った納棺師で、子供のころから父の背中を見てきた。大学在学中にその父親が起した会社で働き始めるものの、入社から三年ほどして独立。2013年に納棺師の育成機関「おくりびとアカデミー」を設立している。

 以前、別の取材で見聞した納棺師が日に何件もの現場を移動するハードさに驚いたこと、そうした労働環境が独立の背景にあったのかと訊ねると、木村さんが「そうですね。どうしましょう?」と思案する。

「本当のことをお話しすると、納棺師は基本的に葬儀社の下請けとしての立場で、依頼がなければ初期ケアすらできない。それがすごく悔しかった。これは、ちがう。被害を受けるのはご遺族だと思い、何とかしたいというので立ち上げたのが本当の経緯なんですよね。

 ただ、ふだん人前で話しているのも嘘ではない。チームを組んで、葬儀社さんと納棺師がご遺族をサポートしていくことは、ひとつの形としていいと思っている。ただし、時間軸を長くとり、納棺師が関わる時間を多くしたいと思ったんです」

画像2: トップインタビューvol.14 ディパーチャーズ・ジャパン株式会社 代表取締役社長 木村光希氏

──なるほど。さきほど、答えにすこし迷われたのは?

「(悔しかったという感情を伝える)上手な表現が思い浮かばなかった(笑)」

──現在代表を務める会社では葬儀全体を行われているわけですが、他社の葬儀社から「納棺」だけを請け負われるということもあるんですか?

「やってはいます。ただ、チームを組んで見送らせてほしいという、こちらの要望を受け入れてもらえる葬儀社さんに限られていて、数としては多くはないです」

━━「要望」というのは、具体的には?

「できれば、亡くなられてから火葬前を含めて、複数回訪問させていただきたい。というのも、葬儀会社さんに来てくださいと言われないかぎり、私たちは伺うことができない。納棺師の仕事をしていて思ったのは『なんでもっと早く呼んでくれなかったんだろうか?』ということの多さなんです」

──というと?

「私の経験上、だいたい亡くなられてから、かなり時間が経過してから呼ばれることが多いんですが、ときには口が開いたままだったり、瞼が開きかけていたりする。そのような状態でご親戚の人たちに囲まれているのを目の当たりにすると、かなしくなる。ご遺族にも余計なストレスを与えてしまっている。

 死後どのようにご遺体が変化していくかということは、お医者さんでも予測し難いことが多い。もちろんしっかり処置はするんですが、できたらその後もケアをしたい」

──そのケアですが「火葬前」というのは?

「最後、火葬炉に入る前にもう一回ちゃんとお化粧直しをして、髪を整え、『いってらっしゃい』と声をかけたい。でも、そうすると金額の問題が生じる。だから、葬儀社としては一回に抑えたいとなる。

 あと、納棺師へのオーダーの際の情報の共有です。全ての葬儀社さんではないのですが、死後のご遺体の変化に関する知識の不足や、最近は個人情報のこともあり、感染症の有無や点滴の箇所、宗派や性別すら分からないことがある。そうしたこともあって、葬儀社さんともチームを組むときは、ご遺体と関わる時間、初動を含めた回数と情報共有などについてしっかり連携をとれるようにしています」

 このとき電話の着信音が響いた。スマートフォンを耳にあてた木村さんの顔つきが険しくなる。短い受け答えをするうち「それはおかしい」と声を低める。取り込んだ用件らしく、「すいません」といって席をはずした。

納棺だけをやっていたら見えなかったことは多い

画像3: トップインタビューvol.14 ディパーチャーズ・ジャパン株式会社 代表取締役社長 木村光希氏

 10分ほどして戻ってこられ、笑顔で再開。あらためて、ご遺体の処置の回数にこだわる理由を、木村さんは「最後の表情は記憶に残りつづける」ものだからだと説明する。

「葬儀会社をやっていてよかったと思えるのは、祭壇、お食事、お通夜、告別式といろいろある中に『納棺の儀式』がある。たとえば、これまではメインデッシュだけを提供していた店が、コース料理を提供するようになった。コース料理を理解することで、メインデッシュの質とか提供のタイミングは人によっていろいろ違うというのがよくわかるということがあるんですね。納棺だけをやっていたら見えなかったことは多いです。

 あの、きょうはこういう話でよかったんですか?」

──いいです(笑)。というか、NHKのあの番組を見てしまうと、もう新たに納棺師としての仕事について聞くことは浮かばなかったんですよね。

「ああ、わかります(笑)」

──ほかにもいろいろ取材を受けておられるし、せっかくの機会なので、できたらこれまで出てこなかったことを聞きたくて。

「なんかビジネスチックに考えなければいけないということが増えて、職人としての考え方のいっぽうで、バランスが大事だなぁと思うようにはなりました。この仕事をしていていつも考えるのは、死と直面した人たちに何を提供できるか。僕らができるのは納棺なんですが、それ以上のものができたら、それを提供する必要があるとは思っています」

──納棺の仕事をされているのに、「納棺の儀式」は絶対必要なものではない?

「手段なんですよね、ご遺族のための」

──木村さんが展開されている「おくりびとのお葬式」のホームページを拝見すると、「一日葬」や「直葬」もされているんですよね。そうした簡略化された葬儀でも「納棺師」の方が納棺をされているんですか?

「僕らはすべての葬儀に対して、初期処置からお手当て、納棺の儀式まで、すべてやります。葬儀斎場に安置されている場合は、朝と夜に見て、整えて、というのを火葬まで。通常、これを葬儀社さんがやろうとするとその都度、納棺師さんを呼ばないといけない。人件費が回数ごとに増えてしまう。けれども、うちは担当者全員が納棺師でもあるので、アウトソーシングしないでいい」

──その分、価格を抑えられるという強みがある?

「そうです。お金のこともそうですが、複数回来て見てくれるのというのは安心だと思います。しかも、うちは基本的には受注担当と葬儀担当とが同じ。中間の処置で人が変わることはあっても、カルテをつくって引き継いでいます。

 あと、うちが特殊なのは、病院の看護士さん、介護施設の介護福祉士さん向けに、死後の処置をお教えする講演会もやっている。そういう活動をしていると、施設の利用者さんに何かあったときにお願いされることが多いです」

 ここで再び、木村さんのスマートフォンの着信音が響いた。様子を察したスタッフが近寄り、廊下へ出ていかれた。やりとりを終え席に戻ってきた木村さんに、差し障りのない範囲で電話の説明をうかがった。

画像4: トップインタビューvol.14 ディパーチャーズ・ジャパン株式会社 代表取締役社長 木村光希氏

 事前に相談を受けていたお客さまで、結局、別の葬儀社が施行することになったものの、ご遺体のケアについて納棺師の意見を聞きたいと相談してこられたとのこと。だが、その処置はプロの仕事とは思えないものらしい。抑えた口調に怒りが感じられた。説明を終えると「ああ、どこまで話していました?」と柔らかな笑みを浮かべ、瞬時に表情を切り替えた。

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