トップインタビューvol.10(前編) 株式会社めもるホールディングス 代表取締役 村本隆雄氏
日に焼けた村本さんは、にこやかにこんなたとえ話をする。グループ企業全体を「水槽」、新たに起業した「葬儀もできるケータリング会社」と母体の葬儀社。二種の「ピラニア」をガチに戦わせるのだという。
もう衝撃でした。こういう葬儀場があるんだと。
でも、じきにこういう流れが来ると思った
外観の赤煉瓦。たまねぎ倉庫を改造したというホールはコンサートが開けそうな落ち着ける空間だった。
オープンしたのは2007年。北海道札幌市にある葬儀場「ウィズハウス北12」のコンセプトは「家族がひと時を故人と自宅のように一緒に過ごせる」。
葬儀場に見えないモダンなホール「ウィズハウス」を展開してきた「めもるホールディングス」代表取締役の村本隆雄さんは「葬儀屋の三代目」。社長就任は2010年。以前から稼業の「暗い」イメージを打ち壊したいと考えてきたという。
「私が社長に就く前、まだ父とふたりのオジが役員としていたんですが、渉外活動で忙しく、実務はある程度任せてもらっていた。それで、ああいうかたちも可能になったということですね」
──葬儀ホールに見えない施設ですが、どこから発想されたんですか?
「もともとは家族葬で面白い展開をしているところがあると聞いて、兵庫県の三田にある『けやきの森』というホールを見に行ったんです。もう衝撃でした。こういう葬儀場があるんだと。じきにこういう流れが来ると思ったんですね。
あれは03年ぐらいだったかなぁ。ウィズハウスの1号店は、けやきの森がモチーフで、二階に上がると主寝室があり、その窓からいつでも棺を目にすることができる。あの位置関係も参考にさせていただきました」
──リビングから見上げたときに窓が見えたので、何だろうとおもいました。
「そこは空間コンセプトがしっかりしていて、どこからでも大切な人が目に届くようになっていたんです」
──ああ、なるほど。しかし「家族葬」の規模としては大きい。ベッドルームが3部屋、布団を並べることのできる広間もある。
「利用は20~30人から50人規模が可能です。オープン当時はあれでも手狭に思えたんですよ。いまだと考えられないですけど」
──今後新たにつくられる場合は、もうすこし小さな規模になっていくのでしょうか?
「現在展開しているのはコンビニだったものをコンバージョンしたものが三つ。60~70坪ぐらい、20人規模ですが、今後は40坪くらいでもいいかなと考えています」
置かれていたパンフレットを拝見すると価格は決して安くはない。といって「居心地」を考えると、高くもない。プチゴージャスとでもいうか、葬儀業界が低価格競争に入っている中では異色だ。
「従来の葬儀屋さんの感覚でいうと、大きなホールの中にメイン会場が二つというのが多かった。家族だけでやりたいというお客さんには、控え室として使っている部屋を案内することになる。金額もそれにあったものになるわけですよね。
でも、『少人数の葬儀=安価』というのは誰が決めたのか。人数は少ないけれど、しっかり送りたいというご家族もおられるのに、その人たちの要望に対応できていない。空間はコンパクトだけどリラックスでき、上質なサービスを提案すれば、ぜったい選んでいただける。そう考えていました」
オープン当時、祭壇によるランク付けをせず「ワンプライス」で始めたという。
「飲食込み85万円でやっていました。安いか高いかというと、まあまあ高いほうでした。社内で議論もありました。洒落た空間だとしても、こんなにもらえるものか。何でもらえないという話が出てくるかというと、葬儀屋さんは祭壇を売ろうとするんです。僕は祭壇ではない、お客さんが求めているのは空間だと」
──現場を体験していく中で思われたことですか?
「現場が長かったですから大きい祭壇を扱いもしました。でも、祭壇に惚れ込んで、これにしてくださいということは、ほぼありません。これはちがうなぁというのはありました」
──仕事をされながら違和感があった?
「ありましたね。ワンプライスにしたのも、どれにしますか? 30万、50万、70万、100万とありますが? と判断を迫られれば何となく松竹梅の真ん中からすこし上を選んでしまう。それはストレスだろうから一つにしたんです」
「従来と異なる」ことということから社内で、当然のように議論があった。
──反対意見をどうやって説得していったんですか?
「そこは啖呵を切るしかない。失敗したら責任は俺がとる。でも、たしかに不安もありました。だけど三田を見た鮮明な記憶ですね。実際のお式を見れば、お客さんの満足度が高いのは表情からわかります。ただ、こういったお別れのスタイルがあるということを見せてあげれば必ず成功する。それは根拠のない自信でした」