葬儀はどうあるべきか。
ご家族のストレスを削ぎ落とすことから見直していった

──内装もそうですが、どういうデザイン設計にするのかが重要だったとおもうんですが。

「デザイナーさんに頼むと、従来はこうだからと数字の組み立てでやっていくんですが、デザイナーさんと『そもそも葬儀とは』と語るところから始めました。

 どこもそうだと思うんですが、亡くなったとたん病院は家族にすぐに出ていってくれという。それで葬儀屋さんに連絡を入れ、家などに安置すると、お寺さんは? 日程はどうしましょう? と聞かれる。近所の人が弔問に来られれば喪主さんは対応に追われる。ずっと仏さんに背を向けている。

 火葬場から自宅に戻ったときに、ようやく故人と向き合える時間ができる。くたくたに疲れはて『自分はちゃんとお別れできたのか?』となる。これって、おかしくないか?という話をデザイナーさんとするんです」

画像1: トップインタビューvol.10(前編) 株式会社めもるホールディングス 代表取締役 村本隆雄氏

 葬儀はどうあるべきか。「家族が故人のまわりにいないとダメだ」と村本さんは強調する。それには、家族に煩わしいことをさせない。「ワンプライス」にしたのもそのひとつ。料理にも特色があり、葬儀にはめずらしい「ビュッフェ」スタイルを提案。会葬者の数で悩むことをなくしている。

「ご家族のストレスを削ぎ落としていくことから見直していったんです。ドリンクディスペンサーを設けているのも、あえてうちのスタッフは置かず、お客さんのセルフでやってもらう。それにも意味があって、本来、葬儀は家でやるべきもの。僕はそう思っています。住宅事情などで出来ないから葬儀場を使う。だけど、自宅なら遠いところからやって来た人に家族がお茶を入れるでしょう」

 通夜の時間が過ぎるとスタッフは「あとはお任せします」と引き上げるのも、あえてセルフサービスにすることで、「たとえば、ふだん顔を合わせることのない東京の姪と北海道のおばが洗い場に立ち、おばあちゃんの思い出話が生まれる」効果を狙っているという。

──ベッドルームも、それぞれに贅沢なつくりですよね。

「寝室であるとともに、孫世代が集まったり、おばたちが集まったりする使われ方をする。葬儀場は、小さな部屋をいっぱいつくったほうがいいんですよ」

 それは?と尋ねる。「ひそひそ話をする場がないといけない」という答えが返ってきた。そういう場面が生まれるのも、なるほどお葬式特有だ。浴室も立派で、葬儀を忘れそうになるかもしれない空間設計がなされている。

「アンケートでよく書いてもらうのは、『葬儀で来たはずなのに家族旅行のようだった』。これは僕の中で最高評価ですね。家族旅行のようだけれど、ちがうのは、これがもうおばあちゃんと行く最後になる。生きていたら、また行こうね、となるんでしょうけどね」

──もう一軒「ガラスのホール」を見せてもらいました。結婚式場を連想させる空間に、キッチンのある空間が併設されている。これも会話効果を狙ったということですか?

「キッチンはなくともいいんですが、あえて水まわりをつくることで、まれに自炊をされる方もいらっしゃるんですよね。スーパーで食材を買ってきて料理してもらうのもOKなので、そういうのも狙っていたんですが、なかなかそこまでされる方はないですね」

──むしろ系列の仕出し料理をとってもらったほうがありがたいのでは?

「そうなんですが(笑)。葬儀屋としては、おばさんが姪っ子に、おばあちゃん秘伝の煮っころがしを教えるというのがあるといいなぁと。理想は自宅で葬儀をし、自宅で送り出すことなので」

──東京や大阪などでは、自宅での葬儀は減少の傾向にあり、なかには葬儀屋さんに頼むと断られることもあるそうです。村本さんのところは「自宅葬」については?

「逆にこれから自宅葬を専門とする、デリバリー型の葬儀社をつくろうというふうに考えているところです。出前で、ご自宅でしますという。そこにニーズはあると思っています。

 なぜ自宅葬をやりたがらないかというと、従来の発想でいうと手間がかかって儲からない。でも、特化することで利益構造はつくれる。ニッチかもしれないけれど、そのマーケットでトップシェアはとれると考えています」

 村本さんは、葬儀を「単価」で見ず、生前死後のライフサイクル全体の中で、顧客との関係性をつくりあげていくことがテーマ。そのためには「葬儀の母数」を増やしてく必要がある。一件ごとの価格ではない。「お世話をさせていただく機会をどれだけ多くしていくのか」だという。

「そうすると自宅葬でもどんどん受け、福祉葬もどんどん受けていくべきなんです」

ケータリング子会社と本業の葬儀社。両者を戦わせる。
答えはお客様が握っている

 めもるホールディングスはグループ企業に、写真館や飲料事業をもち、この秋には新たに不動産事業の会社を増やした。

「まだ始めてばかりで20日間のリサーチしかとっていませんが、56件葬儀があった中の持ち家は45件。うち独居が8件で、明らかに家をなんとかしないといけない」

 そこに仕事の発生機会があると踏んでいる。 

画像2: トップインタビューvol.10(前編) 株式会社めもるホールディングス 代表取締役 村本隆雄氏

──異業種拡張とおもえますが、グループの会社間に人事交流はあるのでしょうか。

「定期的な異動はないんですが、私がいつも社員に言っている『一万時間理論』というのがあって、ひとつの仕事を一万時間経験するとプロフェッショナルになる。勤務年数でいうと四年、それでプロフェッショナルになった人間がその先二万時間同じところに居続けたとして、それは変わらない。だとしたら、ちがう分野で次の一万時間をつくれと言っているんです」

 村本さんは、仕事のキャリアを面で拡げていくのが「一万時間理論」の要諦だという。「キッチンのプロでもある葬儀プランナーは世の中にどれだけいますか?」という。

「企業がどういう人間を必要としているのかというと、いろんな引き出しをもち、その一つ一つの引き出しを極めた人間。どんな部署に配属してもやっていける。そういう人間にならないといけないとスタッフにいつも言っています。実際、葬儀の人間を卒業させ、いまはケータリングサービスの事業を始めたので、そこの責任者にあてたんですね。ケータリングの潜在需要を発掘しようという」

──突然、辞令を受ける社員さんはどんな反応をみせるんですか?

「卒業だからというと、目が点になっていますよね(笑)。ただ、なかには花が好きで技術を磨いていきたいという人がいて、そういう人はそのまま居てもらいます。

 しかし、二万時間になったときに給料が倍になるかというとならない。仕事としての生産性のピークに達しているわけですから。給料の問題ではないというのであればぜんぜん構わない。でも、給料はアップさせたい、キャリアも踏んでいきたい。それなら、いろんなところを渡り歩いたほうがいい」

──異動によって給料も上がる?

「上げていってハッピーにならないと、次の卒業予定者が卒業したがらなくなりますから(笑)」

──そのようにされたのはいつから?

「3、4年になりますかね。きっかけは一万時間の理論を唱えている藤原和博さんという人がいて、日本で初めて民間の中学校の校長になられた」

──元リクルートの方ですよね。

「そうです。藤原さんがいた頃のリクルートは32歳で定年退職するという制度をとっていた。当時、江副さんがなぜそのような制度をつくったかというと、終身雇用が当たり前の時代は続かないと考えていたんでしょうね。

 この会社に10年しかいられないとすると仕事の仕方もそうですが、アフター5の使い方が変わってくる。人脈を拡げるためにいろんなサークルにいく人、語学を身につけるために駅前留学する人、さまざまな人間が出てくる。10年という区切りをつけ、退職時には1000万円の退職金を出し、これを原資にして起業を促した。

 ここまでは江副さんのいい話で、ここから先は賢いなと思ったのは、起業のプレゼンを江副さんの前でさせるんですね」

 つまり「これは面白い」と思えば、リクルート本体が投資する。藤原さんの本を読み、これを葬儀の仕事に置き換えてみたという。

「ケータリングに異動した人間に言っているのは、『ケータリングで葬儀を取りにいけ』。葬儀は人が亡くなって葬儀屋さんに頼みますよね。食事は葬儀屋さんが発注する。仕出屋さんは、葬儀屋さんにその何割かをまわす。だったら仕出屋さんが葬儀を受注したらどうなるのか? 料理を媒介に葬儀を仕出屋さんが斡旋する。これはプランナーの経験がある彼ならできる」

──具体的にどうしたらいいか、葬儀経験が生きるということでしょうか。

「そう。ふつうの仕出屋さんがイチからそれをやろうとすると、葬儀経験のあるものをヘッドハンティングしてくるしかない。でも、経験があると『葬儀はこうあるべき』という考えがつよくて、使いづらい。しかし、自分でこうしようと考えた人間はちがう」

 精悍な顔つきの村本さん、にこやかに「言い方は悪いですが」と断り、こんなたとえ話をする。グループは水槽、新しいケータリング会社と葬儀の会社。二つはピラニア。両者を戦わせる。「ガチです。どちらかが倒れる可能性もありますが、答えはお客さんが握っている。どっちにニーズがあるかを見極めて、グループとしての舵を切ることもできる」

インタビュー・構成=朝山実
写真(ウィズハウス各ホール)/大塚日出樹

画像3: トップインタビューvol.10(前編) 株式会社めもるホールディングス 代表取締役 村本隆雄氏

【プロフィール】村本 隆雄 (むらもと たかお)
1972年生まれ。北海道恵庭市に本社を構える老舗葬儀社の3代目。91年メモリアルむらもと入社、99年取締役、2010年代表取締役に就任。18年にめもるホールディングスを設立。代表取締役に就任。
恵庭市、札幌市、北広島市に葬祭会館「ウィズハウス」「香華殿」を12拠点に展開。ライフエンディングサービスの具現化を加速し、介護事業、飲食事業、供養・アフターサポート事業に及ぶグループの総統括を務める。

▼めもるホールディングス公式サイト
https://memoru.co.jp/


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