クレーム対応を発端に生まれた
AFFA生花祭壇技術試験
━━御社のWebサイトを拝見しますと、AFFAやFFA、CPSなど、いくつもの資格制度を導入、運用されていて、それが顧客の安心感や社員のモチベーションにつながっているように見受けられました。これらについて概要をご説明いただけますか。
メインになるのが、花祭壇を製作する技量を客観的に評価する生花祭壇技術試験です。これが生まれた発端はクレーム対応でした。前述したように当社は、京都や北海道の方から教わって、花祭壇を手がけるようになったのですが、いくつもやっていると案件によっては、カタログの写真と出来映えが違うではないか━━といったお叱りを受けることがありました。また品質は同レベルであっても、担当者によっては材料使い放題、時間掛け放題といったこともありました。
お客さまの指摘を受け、まずはカタログ通りに作れる技術者を育成するところからスタートしました。またある程度のレベルまで来たら、「この金額のこういう祭壇であれば40分で製作できるように」といったガイドラインを作り、そのためにはどうしたら良いか手順を明確にして学ばせるようにしました。
━━現在はユー花園の社内制度ではなく、外部にオープンにされた資格制度になっているんですよね。
2014年に、当社の考え方に賛同いただける方々と一緒に「フューネラル・フラワー技能検定協会(AFFA:Association of Funeral Flower Arrangement Competency)」を立ち上げ、現在はAFFA公認の「生花祭壇技術試験」として資格審査を行っています。S・A・B・C・D級の5段階に分かれており、高い応用力・発想力・技術力が求められるとされる最上位のS級をめざしてフラワーデザイナーは腕を磨きます。
日本の生花祭壇への関心はアジア諸国でも高く、韓国・台湾・中国・シンガポールといった国から、その技術やデザインについて学ぼうと見学や受験のために来日する人もいらっしゃいます。
━━続いて、FFA(Funeral Flower Attendant)について。こちらの「A」は「Arrangement」ではなく「Attendant」のAなのですね。
そうです。きっかけは、あるレストランに伺った時に、ワインの味はもちろん、それぞれの客の関心事を察知しながら、その知識レベルに合わせた話をして下さるソムリエの方の接客の素晴らしさに触発されたことでした。まさにコミュニケーションの達人だなぁと……。
花祭壇を製作している当社の社員たちの中には、技術優先というか職人気質の者も少なくありません。挿すのが上手なだけでなく、喪家の方から、使用するお花の産地について尋ねられた時に、正しい知識と気持ちよい接客マナーで対応できるほうがよいだろうと。それで接客についての資格制度を設けました。
当社ではウェディングにも力を入れていますが、結婚式の打合せについては通常フローリストが同席します。一方、葬儀の場合は、葬儀社の方だけで喪家と調整するのが一般的です。しかし、葬儀花も使用する花の種類や色、デザインなどお客さまの要望は多様化・高度化しており、葬儀社の方だけで対応するのは難しいケースも増えています。
そういった状況を踏まえ、当社としては、FFA資格をもった当社のフラワーデザイナーの同席を葬儀社様にお勧めしています。お客さまにご満足いただける有効な提案ができ、それが採用されて単価アップにつながれば、喪家様・葬儀社様・当社の三者にとって望ましいことだと思います。
━━最後にCPSについて。これは施工レベルについての資格制度とのことですが、挿す技術を評価するAFFA資格とは何が違うのでしょうか。
現場でのセッティングをいかに効率的に段取り良く進めるか━━つまり施工能力を測る仕組みです。近年は採用難ということもあり、一人前に育成するために要する期間をいかに短くするかというテーマも浮上し、これらを解決する方策として、花を挿す技術とは別に、効率的な施工手順についても標準化。そのスキルを「ゴールド」「シルバー」「ブロンズ」と3段階に分けて評価する施工プロフェッショナル制度(CPS:Construction Professional System)を設けたのです。
花という実体のあるモノが同居することで、
葬儀というコト・儀式に意味や価値を与える
━━新たな取組みとして、御社の技術やブランドの使用権を付与して、加盟企業が各地域で花祭壇のビジネスを展開できるフランチャイズ(FC)システムを立ち上げられたとか。
始めたばかりで、加盟店数もまだわずかですが、目標としては今後数年の間に50くらいまで増やしたいと考えています。我々としては葬儀関連のビジネスを1都3県以外に広げる予定はないので、志を同じくする仲間を募ってFCシステムの形で我々のノウハウやブランドを広げていくつもりです。
一番の眼目は、花祭壇の市場を健全に発展させることです。FC化を検討する際に、「せっかく自分たちが磨いてきたノウハウを他社に提供することはないんじゃないか」。そんな意見も少なからずありました。
しかし、様々な業種において、同じ名称を使いながら品質基準を満たさない商品や粗悪なサービスが一時的に幅を利かせることで、業界自体が信用を失ってしまい、結果的に市場が消えたり萎んだりすることがしばしば起こります。
せっかく「(生)花祭壇」というジャンルが育ってきたのですから、これから普及が進む地域においても、きちんとした技術や品質を前提とした真っ当な競争が行われる形で市場が形成・発展して欲しいと考えています。
━━葬儀費用の削減といった動きとも関係があるのでしょうが、最近は花祭壇に代えてプロジェクションマッピングのようなアプローチもあると伺います。そうした動きについてどのようにお考えですか。
仮に幼いお子さんがお祖父様やお祖母様の死に直面したとして……棺に入れる花を手にしたときの手触りやうっすらとした匂いなどとともに、「普段は涙を見せない父が号泣していたなぁ」などと、初めて命の儚さを感じた日のことを何十年も心に留められるのではないでしょうか。
花という実体のあるモノが同居することで、葬儀というコト・儀式に意味や価値を与える━━葬儀における花の役割について、私はそんな風に思います。選択されるのは喪家の方々ですし、表現方法の一つとしてプロジェクションマッピングのようなものを否定するつもりはありません。ただ我々としては、花の面からより良い葬儀となるお手伝いができるよう、本物にこだわっていく姿勢や努力を大事にしたいと考えています。
━━FC展開以外に、葬儀分野において感じているテーマなどあれば教えて下さい。
これまでは、どこの葬儀社様がどこの花屋に発注しているかは、葬儀を依頼したお客さまが尋ねない限り、基本的にはわかりませんでした。そういう意味で、葬儀花を扱う事業者は隠れた存在でした。ただこれからは少しずつ変わっていくのではないか、変わるべきではないか━━そんな風に考えています。
葬儀の低価格化や価格基準の明確化が進み、葬儀全体の中で花にかかる費用がそれなりの割合を占めています。どういう花屋が祭壇を製作するのかが、葬儀社様を選ぶ重要な要素になる……今後はそんな案件も出てくるでしょう。
そんなとき、「ああ、あそこにあるフラワーショップの花屋さんです」「あそこのホテルのウェディングも手がけているユー花園が担当します」といった具合に、ユー花園を起用することが葬儀社様にとっても強みになるよう、我々自身が技術力やブランド力をさらに磨いていく必要があると思います。
━━葬儀分野以外で何か新たな取組みを考えていらっしゃったら是非お聞かせ下さい。
葬儀やウェディングは今後も重要な柱だと考えていますが、会社としての成長を考えたとき、新たな分野も模索していかねばと考えています。
一つは、Webサイトを通じて、葬儀ともホテルとも違う一般企業における需要を掘り起こすことです。取引先が設ける新たな営業所の開店祝いの花や、社員のご両親が亡くなられた際のお悔やみの花、定年を迎えて勇退される社員の方に贈る花など、花に関するご依頼を幅広く承れるような体制を採り、一定の数字が見込める法人顧客を増やしていきたいと思います。
それから明確なシーンはまだ思い浮かんでいないのですが、我々の技術をもってすれば、文字にせよ何らかの造形にせよ、それなりの人が集まるようなイベント等で「花でこんなものが作れるんだ」などと、驚きや感動を与える表現を提供することができるはずです。来月(2020年2月)上旬には、イベント関連の展示会(イベント総合EXPO)に出展する予定ですが、そういったイベント関係者との交流等を通じて、近い将来には、花祭壇で培った技術やノウハウが生かせる新たな用途の開発にチャレンジしたいと思います。
━━本日はありがとうございました。
最近読んだこの本
山田社長に、最近読んだ本の中でおすすめの一冊をご紹介いただきました。
『信長の原理』垣根涼介著
「安倍首相が2019年に向かう年末年史の休暇に読む本として挙げていたことで興味を引かれ読みました。ビジネスの現場でもよく引き合いにだされる2-6-2の法則について、その定石に挑戦し皆が一丸となる組織作りに力を注いだ信長でしたが、猜疑心ばかりが募りやがて光秀の謀反を招くことになります。清々しいとは言い難い読後感でしたが色々と考えさせられました。」
【プロフィール】山田大平(やまだ・たいへい)
1969(昭和44)年4月、東京都生まれ。電気設備工事会社での勤務を経て、1997年4月、株式会社ユー花園に入社。2001年10月に常務取締役に就任し、以来、創業者であり初代社長である父祐也氏の路線を踏襲しつつ経営の近代化を主導。2011年10月、第2代の代表取締役社長に就任。花祭壇製作技術の可視化・明確化や花祭壇ブランドのFC展開などを通じ、花の総合サービス企業としてさらなる発展をめざす。
▼ユー花園公式サイト
https://www.youkaen.com/
<ユー花園のキラリビトたち>