株式会社神奈川こすもすは、横浜・川崎を拠点に年間1,800件の葬儀を施行する専門葬儀社である。同社は、2017年から花祭壇や供花製作の内製化を始め、今では同社が受託する案件の約95%を自社生花部門で対応しているという。
経験ゼロ、設備ゼロの状態から、どのような道のりを経て現在に至ったのか、生花部門立ち上げを担った株式会社神奈川こすもす業務グループ木村部長にお話を伺った。
手探りでのスタートから、早や3年
━━現在の生花部門の体制や月間処理件数について教えてください。
時期によって変動はありますが、処理件数は月130〜190件ほどです。メンバーは、事務作業を担当する方も含め16名(うち社員7名)。分業制を取っているので、供花や祭壇を製作するチームと、配送・設営と担当するチームに分かれています。
━━生花部門立ち上げは、いつ頃から始まったのでしょうか?
準備期間から含めると2016年からですね。最初は、京都にあるグループ会社(洛王セレモニー)の生花部門で半年間、葬儀屋の生花部としての実務を学びました。そのあと、さらに半年間、東京にある花祭壇を専門に扱う会社さんで花づくりを修行させてもらいました。
必要資材や業務の流れが把握できてきたところで、2017年から設備を整え、事業としてスタートしました。最初は社員2名、パート1名の計3人で。当時は分業体制を敷くのは無理ですから、花を挿して、自分で式場に運んで設営して戻ってきて、また夜中まで供花をつくるとか。
1年目は籠花など中心に月90〜100件程度の件数を扱うところから始まりました。3年目に入って、専門的な知識を持つ経験者も加わったことで社葬の花祭壇の依頼も受けられるようになり、徐々に外注を減らしていって、ほぼ自社でまわせるようになったのはごく最近です。
━━木村さんご自身は、花に関わる経験はお待ちだったのでしょうか?
いえ、全く経験はありませんでした。ただ、私は以前、魚屋に勤めていたんです。スーパーにテナントとして入っている水産会社で、市場に仕入れに行ったり、マグロをさばいたりしていました。なので、社長の指示を受けて洛王セレモニーへ視察に行ったときに、仕入れの感覚とかは、なんとなくイメージ出来るな、と思ったんです。
━━そこから1年修行して、設備や体制を整備していかれたのですね。
まず、地下1階地上4階建ての自社葬祭ホールの1階・2階の一部を改装し、生花部門用のスペースとして確保しました。ただ、葬祭ホールと共用のため、メインの作業場としている1階は、今でも出棺の時間は作業を止めて撤収する必要があるんですよ。2階は、元は普通の事務所として作られていて水を撒けないので、片隅に水場を作り、主に資材と開花待ちの花などを置く場所として活用しています。
次に体制づくりですね。2社にお世話になったことで、両社の良いところをうまく組み合わせながら、自分たちなりのアイデアも加えつつ整えていきました。
1年目は、花の保存方法はこれで良いのかとか、採用して人が来てくれるのか、資材やトラックなど必要数の見積が合っているのか、全て手探りで。不安もありながら、ひとつひとつ進めました。
例えば、花の仕入れ。当初は、決めた日に市場から配送してくれることを知らなくて(お魚の仕入れと同じような感覚で)自分たちで毎回取りに行っていた。だんだん市場の仕組みも見えてきて、まとまった量を発注できる目安もついた段階で、社内予算を取り、市場と配送の契約を結びました。今では当社側の物流も整備されてきたので、追加仕入れは配送のついでに回るなど省力化も図っています。
そうやって、1年かけて運営体制が固まり、2年目は原価管理や効率化を進め、3年目は内製業務を増やすことに注力していきました。
手作りのツールで効率アップ
━━生産性を高めるためのオリジナルツールなども開発されていると聞いたんですが。
他社さんもいろいろと工夫されていると思うので、目新しいものは特にないかも知れないんですけど......例えば、このオアシスを載せる縦板、横板とかですかね?これは、ホームセンターで買ってきた板にズレ防止のための細い木枠を付けて、黒く色を塗って作りました。当社オリジナルの運搬台。女性1人でも運びやすいので、現場で喜ばれています。
それから、これも1人で運びやすいサイズに作った段差のあるオアシス台。祭壇を作って斎場に運んだあと、組み立て直さなくても並べるだけで完成します。
それから、これは既成の商品ですが、水量に合わせて調整された保存液が水と混ざって蛇口から出てくる設備なども導入しています。
他には、初心者サポートツールとして供花の外形を形どって目安に使うボードとか、花束の大きさの基準を取るための物差しなどもあります。決まったサイズのものをつくる場合に、都度、メジャーを出して測ることもできますが、これらの道具があれば、サッとかざすだけで終わる。1回の時間で見れば、ちょっとした差のようで積み重なれば効率性に関わってきます。まだ各商品のサイズがしっかり頭に入っていない新人メンバーもスムーズに仕事が進行できる。結果として業務の平準化にも役立っていますね。
こういったツールは、みんなでアイデアを出し合って、良いなと思ったものはどんどん作って試しています。
未経験者も、すぐに即戦力に
━━花祭壇をつくれるようになるには、何年くらいかかるんですか?
当社の場合は未経験でも、早い人なら1年経たずに花祭壇を担当できるようになります。ウチのいちばんの特徴だと思いますが、花を触るのが初めてという方でも入社初日から花を触ってもらっているんです。
そのために、供花や花束など基本の商品は徹底してマニュアルに落としています。「先輩の背中を見て覚える、体で覚える」よりも、理想の形を視覚化できるツールを活用して、実際に経験しながら技術を高める方法が、当社には合っていると思います。
マニュアルを見て、まずは小物から作ってもらい、出来るようになったら供花、枕花、喪主花、そして花祭壇と順にステップアップしてもらう。それを技術力あるメンバーがしっかりサポートしています。
また、社内独自のキャリアアップシートを作っていて、テストを受けて等級が上がると給与にも反映される仕組みをつくることで、スキルアップへのモチベーション向上も図っています。
━━内製化も目処が立ったところで、生花部門としては今後どのような展望をお持ちですか。
自社ホールは今年も増える計画ですし、現在の生花部門のスペースでは、既に対応力が限界に近づいてきていることもあり、自社ホール全体の配置を考えて利便性の良い場所に移るのか、もうひとつ拠点を増やすのか、検討したいと思っています。
また、供花では既に取り組み始めたところですが、花祭壇も当社オリジナルデザインを作っていきたいですね。例えば、男性目線で選ばれそうな商品なども良いのではと考えたりもしています。
━━自社オリジナルのデザイン、楽しみですね。今日はありがとうございました。
番外編:神奈川こすもすの舞台裏
生花部門のある会館の地下は資材置き場。全ホールの備品が一元管理されている。せっかくなので、少し中を見せていただいた。
こちらのコンテナケースには、施行に必要な小物一式がセットされており、同じものがセットされたケースが地下倉庫にいくつもストックされている。葬儀の依頼があればこれひとつを持って会館へ。
各ホール前に置くための会報誌には、貼るカイロがおまけで付いている。夏は叩くと冷たくなる保冷剤に変わるそう。これは、つい持って行きたくなる仕掛け。
▼株式会社神奈川こすもす 公式サイト
https://kgcms.co.jp/