トップインタビューvol.12 株式会社アンカレッジ 代表取締役 伊藤照男氏
「○○庭苑」という名称の樹木葬が全国各地で静かに広がっている。これらをプロデュースして販売を担っているのが株式会社アンカレッジである。
お墓だけではない。経営が難しくなる一方のお寺について、知恵を出し対話を重ね実践を通じて「人の集まる場所」として再生しようと、様々な角度から支援している。同社社長、伊藤照男氏に現在のお寺の状況、同社の事業活動、今後の展望などについて伺った。
広まるアンカレッジの樹木葬
━━かなり幅広く認知され、一定のシェアを占めるようになった樹木葬ですが、ご存じない方のために伊藤社長から簡単にご説明いただけますか。
わかりました。「葬」という言葉から葬儀を想起されるかもしれませんが、お墓の一形態です。これという形で明確に定義されているわけではないものの、一般には「花や緑の中に眠るイメージのお墓」といえるでしょう。
他人のご遺骨と混在する形で埋葬するタイプ、同じスペースではあるものの骨壺や骨袋等によって分離されるタイプ、個人や家族としてのお墓として明確に区分されるタイプなどがあり、実際に樹木を墓標にするお墓もあれば、故人のお名前等を彫刻した墓石や銘板を配すものもあります。
個別埋葬の場合、承継者が守り、子孫も同じ場所に収まるようなスタイルの樹木葬もありますが、割合としては承継を前提としないものが多くを占めます。
現代樹木葬が誕生、普及してきたのはここ20年くらいのことで、前述の通り、様々な形態のものが作られています。それ故に多様な人々の多様なニーズに応えている━━そう言えるかと思います。
━━アンカレッジが樹木葬の企画や販売に携わるようになったのはいつ頃からで、これまでにどのくらいの案件を手がけてこられたのでしょうか。
当社は道往寺の柏昌宏(かしわ・しょうこう)住職が立ち上げた会社で、道往寺内に本社を置いています。2011年から2013年に掛けてこの寺の建替えを進めたのですが、その際に今後の寺の在り方について模索する中で、樹木葬を設けることになり、完成したのが敷地内にある「高輪庭苑」です。
それから約7年が経ちますが、その間、当社は様々なお寺の樹木葬を手がけてきました。東京、千葉、神奈川の首都圏が中心ですが、それ以外では福岡県(糸島市)、兵庫県(明石市)、岩手県(盛岡市)、京都府(京都市)と現時点で16カ所に及びます。
進行中のものとしては来年(2020年)の2~3月に愛知県、4月ごろに京都でオープンする予定です。都内や千葉県でも計画が進んでおり、おそらく来年の前半で5苑ほど増えることになるでしょう。
━━御社が関わった樹木葬には、どれも「庭苑」という名称が付いていますが、「庭苑」という統一ブランドで展開されているのでしょうか。
名称については統一感があった方が、アンカレッジが手がけている樹木葬であることを知っていただきやすいのですが、それを義務にしているわけではありません。多くは「○○庭苑」という名称になっていますが、例外も何件かあります。東京の三田駅近くにある法音寺(ほうおんじ)では、花に囲まれたイメージを大切にしたいということで「三田花苑(かえん)」(2019年6月開苑)と名付けられました。
検討の段階では、一般の方が読みにくい漢字や文字数の多い名称を希望するお寺もあります。そんなときは私たちから「簡単に読めないような名前は覚えづらく(検索もしづらいので)販売活動や地域における認知浸透の妨げになりかねません」「できるだけ場所が想起できるような名称にしましょう」といった助言をしています。
━━いわゆるFC(フランチャイズ・チェーン)システムとも違うようですが、ビジネスの仕組みはどのようになっているのでしょうか。
樹木葬自体はお寺の土地、お寺の費用で建設していただき、販売についてはお寺の方や第三者にお願いするのではなく、広告出稿を含めアンカレッジが主体的に取組み、成約できたらお寺から手数料をいただくというスキームです。
我々とお寺は、いわゆるFCシステムにおける本部と加盟店といった関係性ではありません。樹木葬の事業についていえば、事業主体はあくまでもお寺であり、我々は企画・販売面で支援します。お寺が活性化するという結果を残してこそ意味のあるビジネスだと考えているので、助言への対価ではなく、成果に連動して報酬として受け取る形にしています。
理念は「お寺のある暮らしをつくる」こと
━━私自身は、樹木葬を数多く手がけている企業ということで御社のことを知ったのですが、事業活動はそれに留まらないのですね。
当社は「お寺のある暮らしをつくる」という理念を掲げています。樹木葬は確かに我々の売上の大部分を占めていますが、我々がフォーカスしようとしているのは樹木葬(お墓)ではなく「お寺」です。
日本には7万ものお寺があるのですが、そのうちの約3割が、専任住職のいない無住寺、兼務寺だと言われています。お寺の経営基盤が安定し、今後も日本社会において不可欠な存在として存続・発展できるお手伝いができればと考えています。
━━樹木葬以外には、どういった支援やコンサルティングをするのでしょうか。
一言で言えば「お寺のある暮らし」を実現するための業務です。葬儀や法事、墓参りといった特別な時だけでなく、ヨガや写経、落語、婚活イベント、文化講座など、様々な行事の会場に供することで、住民の方々が日常的にお寺と接点を持ち、人が集まって賑わう場所にしていくためのお手伝いが重要な柱になります。
それが実現したからといって多くの収入を見込むことができるかといえば、そんなことはありません。ただこうした取組みを進めることで、地域住民の日々の暮らしの中でそのお寺が身近な存在になれば、「お墓はここの樹木葬にしよう」「法事もこのお寺にお願いしよう」という風に、伝統的な領域にも好影響が及ぶはずです。