画像: ナインアンドパートナーズ株式会社 代表取締役 大森嗣隆氏

ナインアンドパートナーズ株式会社 代表取締役 大森嗣隆氏

今年の2月よりサービス開始した「お坊さんのいないお葬式」。宗教儀式にとらわれない新しい葬儀の選択肢として、故人を想いで送る「想送式(そうそうしき)」を提案する。

リリースを報じたニュースを見たとき「それって前からある無宗教形式の葬儀のことでは…」と思われた方も多いのではないだろうか。「想送式」のどこが新しいのか、サービス提供を決意したきっかけや想いは?ナインアンドパートナーズ株式会社の代表取締役である大森嗣隆氏にお話を伺った。

心の区切りを付けるための儀式として

━━まず、御社のサービスについて、簡単にご説明をいただけますか?

弊社では「想送式」という、いわゆる無宗教形式の葬儀(以下、無宗教式)を提案しており、それを執り行うことができる葬儀社さんを紹介する「お坊さんのいないお葬式」というポータルサイトを運営しています。

━━「想送式」が一般的な無宗教式と違うのはどういった点でしょうか?

弊社独自と言えるのは、「想送証明書」ですね。参列者の中から代表者数名にサインをしていただき“みんなで故人を送り出した”という証をつくる「想送の儀」というものを式次第に組み込んでいます。

無宗教式を希望されるお客さまは、これまでも一定数いらっしゃったのですが、実際には何をやればいいのかお客さまご自身も分からないんです。そして私たち葬儀社側も、これが無宗教式だと自信を持って伝えられるものが無かったと思うんですね。

そのギャップを埋めるための商品として、「想送式」を考えたのです。

実際にサービス提供を開始したところ、お客さまからは「親戚の方にも受け入れられやすかった」「こういうお式をしたかった」といったお声をいただいています。また、施行した葬儀社さんも「価格以上のサービスができたのではないかと思う。お客さまの反応も良かった。」と言ってくださっています。

━━他にない特徴である「想送証明書」は、どういった意図で取り入れられたのでしょうか。

私は、葬儀とは、残された方が大切な人が亡くなったことに区切りを付けてその先の人生を歩み出せようにするためのものだと考えています。それには儀式的な要素も必要です。仏式であれば、それが読経だったり焼香する行為であり、「想送式」では証明書へのサインが区切りとなる儀式として機能するのです。

彼女とその家族のために、お葬式の時間を使い切れた

━━「想送式」を考案されるまでに何かきっかけがあったのでしょうか?

私自身、葬儀社に22年勤めていて、うち16年ほどは現場で施行を担当していました。そこでお客さまと接する中で「お寺さんって呼ばないといけないのか」「戒名ってどうして必要?」「無宗教の葬儀はどうすればできるのか」といった質問が年々増えていると感じていたのです。

しかし、当時は葬儀社の人間として、白木祭壇や宮型霊柩車などの形を整えた仏式葬儀をセットプランとして販売することが当たり前の感覚でしたし、お客さまも仏式の葬儀を検討される方がほとんど。仏式葬儀でないと、葬儀のビジネスモデルが崩れてしまうんじゃないかとも考えていました。

一方で大森氏には、お客さまが本当に求めるサービスを提供したいという気持ちも強くあった。そこで、お客さまに「お坊さんを呼ぶお葬式がなぜ必要か」をちゃんと説明できるようにしたいと地元の仏教界にかけあい、寺院と協力して勉強会を企画したこともあったが、なかなかうまくいかなかったという。
・・・そんな折、家族ぐるみで付き合っていた友人の妻が余命宣告を受け、大森氏は緩和ケア病棟に呼ばれて、友人とその妻から無宗教式をしたいと相談された。

奥様の願いは、お子さんたちに寂しいとかつらいだけの記憶を残すのではない葬儀をしたい、ということでした。初めてそれを聞いたときは正直なところ、ピンときませんでした。グリーフワークの考え方からすると、悲しみをきちんと出したほうがよいと思っていましたので……

それで、ふたりの話を一旦は肯定したものの、無宗教式は親族の理解が得られなかったり、お寺様との関係もあるので、普通に仏式でやった方が良いかもしれない、とお伝えしました。そのときは、無宗教式を選択することで周囲と軋轢を生んでしまうのでは、と少し心配だったんです。でも最終的には、ふたりが後悔しないよう望むとおりの式を、と無宗教形式での葬儀をお手伝いしました。

画像: 彼女とその家族のために、お葬式の時間を使い切れた

無宗教式の流れは、以前から考え続けていたことでもありイメージは出来ていた。式当日は、思い出の写真を使った動画を上映、親しい方々による挨拶など、最初から最後まで泣きっぱなしのあたたかい式となった。

参列された方からは「彼女の、人となりが分かる良い式だった」と仰っていただけましたし、故人のお子さんが通う小学校の校長先生は、感激して学校のブログにその葬儀の様子を書いてくださったりもしたんです。

私自身、式が終わったときに「彼女とその家族のために、お葬式の時間を使い切れた」と感じました。お葬式は、本来は故人を囲みながら家族や親しい友人が語り合うことで、故人の死に対する納得を得るためのものであるべきですし、そういう意味では、今までの私は宗教者が執り行う宗教儀式をただただ進行するだけだったのかも知れないと。

もちろん、お坊さんを呼ぶお葬式を否定するわけではありません。ご遺族が普段、仏教に触れる機会がなくても、故人が信心深い方だったのであればお坊さんにしっかりお経をあげてもらう、それはそれで意味があることだと思います。弊社の「想送式」は、あくまでも特定の宗教を信仰していない方に向けたサービスです。

葬儀業界にいる者として使命感をもって

━━その後、会社を立ち上げ、ポータルサイトとして全国の葬儀社と提携して「想送式」を提供するサービスを始められたわけですが、ご自身で施行することもできるのに、なぜポータルサイトとしてスタートされたのでしょう。

当時勤めていた葬儀社では、新サービスの開発も担当していたのですが、そのエリアは昔ながらの仏式葬儀が大半でした。その中で「お坊さんのいないお葬式」というプランを展開するとしたら、当然、大きなハレーションも起こすだろうし、難しいでしょう。

とはいえ、いろいろ自分で調査もしてみて、これは多くの方が潜在的に求めていらっしゃるだろうと確信が持てた。そういった方々に、こういう方法もあるよ、ということを見せるのは葬儀業界にいる者としてのひとつの役目ではないか、と。そういう使命感のような気持ちを持って独立することを決めたのです。

そして、事業である以上は利益を出さないと継続が難しいですよね。しかし、今までにないサービスであるため、自ら施行しながら時流に乗せるには多大な資金と時間をともなうことが予想されますし、一番難しいのは、外注さんを含む人材の確保です。

そこで、ポータルサイトという形を取ることにしました。スキームとしては、大手の葬儀紹介業者さんと同じです。提携しているそれぞれの葬儀社さんは、自前でプランも持ちながら、弊社サイトからの受注があったときは、そのプランに合ったサービスを提供していただきます。

新しい切り口の商品ではありますが、どこの葬儀社さんも無宗教式のご経験はお持ちのため、スムーズに導入くださっているようです。

━━これから、どのようにサービスを発展させていく計画でしょうか。

今、提携葬儀社さんが200社を超えたくらいなので、初年度を終えるまでに500〜600社まで増やしたいですね。おかげさまで全国各地から想送式のご依頼をいただいております。しかし、まだ引き受けてくれる葬儀社さんがないために対応できないことも多いのです。

提携先は、本社のある東海地域と首都圏で増えてきていますが、お客さまからの依頼は既に地方からも多くいただいており、「想送式」へのニーズは都市部に限られないことを実感しています。

先程も申し上げたとおり、私は、お葬式によって残された方々が前を向いて生きていけるようになることを大切にしています。その役割を果たせるお葬式を、どうすれば提供していけるか。これからも考え続けていきたいと思います。

▼お坊さんのいないお葬式 公式サイト
https://sousou-shiki.jp/


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