当サイトを運営するライフアンドデザイン・グループ株式会社では、子会社にて葬祭事業を営むほか、葬儀社向けの経営コンサルティング活動も展開している。本シリーズでは、我々が支援しているクライアントへのインタビューを通じて、当社のコンサルティングサービスの考え方や改善手法について紹介する。

 今回取り上げるのは、株式会社神奈川こすもす社長の清水宏明。同社は2010(平成22)年頃からコンサルティングを受け始め、2015年度(2016年3月期)には年商10億円を超えるに至った。その後、同社は今後のさらなる成長に向けて、単なるコンサルティングの域を超え、経営資源の共有による業務効率化が有効であると判断し、現在はライフアンドデザイン・グループの一員として一層の飛躍に向けた歩みを進めている。

起業後、すぐに
注目を集めたものの……

 神奈川こすもすの設立は2001年4月のこと。当初は葬儀の返礼品を扱うところからスタートし、2003年から川崎市にて葬儀事業に本格参入した。

 社長の清水は、横浜市で葬儀会社を経営する一家の次男に生まれ、大学卒業後、その会社で約6年間勤務した後に川崎で起業する道を選んだ。清水家として企業グループを形成したり、古巣と協業・協調したりする意図はなく、あくまでも独立した企業体としての発展を展望した旗揚げだった。

 大規模会場での施行を前提とする葬儀事業では間違いなく行き詰まる━━。葬儀の規模や形態が大きく変わりつつあることを、以前から肌で感じていた。翳りは見えていたものの、その時点ではそれなりの収益を確保できており、古巣の経営陣とこうした危機感を共有することはできなかった。それならば違う場所で新たな葬儀の形を提案しようと、家族葬に特化した葬儀事業を自ら興したのだった。

画像: 株式会社神奈川こすもす 代表取締役 清水宏明

株式会社神奈川こすもす 代表取締役 清水宏明

 清水夫婦ともう1名、わずか3名での船出だった。最初に取得した施設は立地条件が悪く、公営施設を利用した低価格での施行案件がメインだった。知名度や資金の不足を補うために、ブログやSNSでの情報発信、イベントやセミナーの開催、事前相談機能の充実などに力を注いだ。

 2009年には、一日数組に限定される結婚式のチャペルに着想を得て、少人数でシンプルながら故人を偲ぶ時間や空間が持てる「火葬のダビアス」なる新サービスを立ち上げた。「ダビアス」とは「明日、荼毘に付す」をもじったもので、アスはUS(私たち・家族たち)という意味合いも含んでいる。直葬と家族葬の中間的なサービスと位置づけられよう。

 全国各地の葬儀会社と手を組み、ダビアスのボランタリーチェーン化にも取り組んだ。そんな活動の最中、葬儀業を対象とする勉強会に参加し、そのとき講師として出会ったのが、後に支援・指導を仰ぐことになる伊藤健(現ライフアンドデザイン・グループ(株)専務取締役)だった。

 どのような手順を踏めばネットワークをスムーズに拡大できるか。清水らから助言を求められた伊藤は、「火葬のダビアス」という新たな取組みに対する興味もあり、しばらくの間、手弁当で彼らの相談に乗った。そうしたやりとりの中で、清水は伊藤の経営コンサルタントとしての識見を認め、自社の経営に係る事柄についても教えを請うようになっていった。

 当時、神奈川こすもすの施行件数や売上高は少しずつ増えてはいたものの、2009年度時点でも売上は2億円に届かず、採算面や資金繰りについて厳しい状態が続いていた。閉塞感を感じていた清水に対し、伊藤は大胆にも「こちらの言う通りに実行してくれたら、5年もあれば年商10億円までは責任を持って引き上げてみせる」。かくして伊藤による神奈川こすもすへのコンサルティングはスタートした。

口座にお金があると、なんとなく
利益が出ているんだと錯覚していた

 伊藤の訪問指導は月1回。清水とのマンツーマンでの打合せに充てることもあれば、管理者が集まる会議に出席して彼らに指示・指導を与えることもあった。

 伊藤が主導した改革は、大きくは2つに集約できよう。まず、自社の業績や実態をきちんと把握できるよう、予実対比をはじめとした管理会計のための仕組みを導入し機能させるようにした。そしてこの新たな物差しを用いて、収益に貢献するか否かを基準に、廃止したり減少させたりすること、逆に追加したり増加させたりすることを明確にしそれを徹底的に実践させた。

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ライフアンドデザイン・グループのコンサルティング事例 
- Case1.株式会社神奈川こすもす

 前者の管理会計については、自社の管理レベルについて問題意識を感じている読者も多いのではないか。葬儀業界は、高収益を謳歌できた時代の名残もあり、どんぶり勘定の経営が続いてきた企業が少なくない。言い換えれば、経営管理に弱い(数字が読めない)、もしくは無頓着な経営者が多い。

 清水自身も以前はそうだった。「業績数値に対する関心が薄く、財務資料も読みこなすことができなかった。資金繰りが苦しくて借り入れをしただけなのに、口座にお金があると、なんとなく売上が上がって利益が出ているんだな、などと錯覚していた」と苦笑する。月次単位で業績や管理指標(施行件数、単価、粗利率など)が明確化されたことで、月例の戦略会議も確たる根拠をもって建設的な議論ができるようになった。

 後者の「選択と集中」に話を移そう。事業面では、葬儀とのシナジー効果を期待しつつも収益貢献の薄かった物販等の周辺事業については廃止・縮小した。取引先についても、全方位的な付き合いをやめ、自社にとっての得失を客観的・合理的に判断した上で、社数を絞り込んで、仕入れコストの削減につなげた。

 伊藤は、社長である清水の時間の使い方についても容赦なく切り込んだ。それまでの清水は、人的ネットワークを拡充することに大きな労力を割いていたという。異業種の経営者と交流できる勉強会に顔を出したり、地域の経営者団体に所属したり、ボランティアで葬儀関連の講師を引き受けたり……といった活動に注力していた。

 このように収益に直結しない活動を止めたり抑制したりすることで、節約できた人材や時間、資金といった経営資源はどこに向かったのか。

 そのひとつはプロモーションである。従来のように自社の都合に合わせて不定期に広告を出すのではなく、一回ずつその効果性を見極めて改善を図りつつ、定常的な活動としてその出稿を増やしていった。外食店や通販ショップを選ぶのとは違い、葬儀についてはできる限り家に近い施設で行いたいと考えている人が圧倒的に多い。周辺住民の神奈川こすもすおよびその施設に対する認知は不足しており、その改善は最優先すべき課題だった。

 こうした施策によって会社は筋肉質な状態に向かい収益力・資金力は向上。施設拡充のための投資に振り向ける余力が生まれた。ダビアスリビング磯子(2013年12月開設)以来、毎年のように施設をオープンさせ、2017~2018年の出店ラッシュを経て、今や14施設に達している(2020年1月現在)。

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 事業の内容も厚みを増した。これまで外注していた生花・エンバーミング・霊柩搬送といったサービスを社内に取り込むことで付加価値の外部流出を防いだ。

 こうした事業では必要に応じて新たな施設や専門人材の採用が求められることから、やみくもに着手しても決して成功しない。例えば葬花に係るサービスは利益率も高く魅力的なビジネスだが、コンサルティング開始時点の神奈川こすもすが手がけても、ロスが膨らむばかりで収益への貢献は叶わなかったであろう。つまり規模や発展段階に応じて適切なタイミングで進める必要がある。多数の実例を熟知した伊藤の知見を借りる形で、売上や施設の増加と足並みを揃えつつ、こうしたサービスの内製化は進められた。

 ここまで述べてきた新サービスや販売促進、施設拡充などの施策━━これらが功を奏するか否かは、最終的には社員がどういった意識や熱量でこれに取り組むかで決まる。

 経営者の多くは頑張った人には報いたいという思いをもっているが、きちんとした基準に基づかなければそれは「恣意的な運用」に映りかねない。また報いる気持ちはあっても、原資としての利益がなければ、人件費はボトムラインに張り付いて成績優秀者に手厚くすることも叶わない。

 神奈川こすもすでは、人事評価において目標管理(MBO)を導入したほか、成果と紐付けたインセンティブや、売上や利益に連動した報奨金など、業績への貢献度を正当に評価し報酬や人事起用にきちんと反映する仕組みを作って運用した。「やった分だけ評価される」という風土が浸透して、さらに頑張ろうという好循環につながった。

 ここまでの取組みを知った読者の多くは、オーソドックスな内容に驚かれたかもしれない。神奈川こすもすの改革を主導した伊藤も「過去の成功にあぐらをかいて、他の業種では当たり前にやっていることができていないケースがこの業界では多い。コンサルティングといっても奇をてらったことをするわけではない。数字や客観的事実によって物事を判断する仕組みと習慣を定着させた上で、利益につながらないことを辞め、つながることに資金や労力を集中するよう誘導する。これが基本」だと言い切る。

『儲かる会社』『強い会社』こそ
本当に良い会社

 コンサルティングの流れを紹介すれば前項のようになるが、その過程では様々なハードルもあったのではないか。例えば従前の不調が、経営の私物化や放漫経営といったことに起因するものであったとしたら、それらを一掃する方向に向かいやすいだろう。一方、神奈川こすもすの場合は、より良いサービス、お客さまが望んでいるであろうサービスを模索しつつもそれが期待するような結果に結びついていなかった。

 こういうケースでは、これまでのやり方を全面的に変えることについて、決して一筋縄でいかないのではないか。その点について清水に疑問をぶつけてみた。

 「確かにそういう面がなかったとは言えません。でも言われていることは正しいことだから認めて改めるしかない。自分の中では『良いサービス』『良い会社』をめざしていたつもりでしたが、それらは単なる『つもり』でしかなかった。お客さまから支持されていたなら業績も向上していたはずです。結果に結びつかなかったということは、我々のやり方は間違っていたと認めざるを得ない。良い会社かどうかは自分たちが決めることではない。市場や顧客から認められた『儲かる会社』『強い会社』こそ本当に良い会社である。そういうことだと思います」

 伊藤も当時の清水の配慮についてこう振り返る。「会議には出席していても、当初2年間くらいは、清水社長は意識して発言を控えていた。それまで良かれと思ってやってきたことをことごとく私が否定する。反論や言いたいことはたくさんあっただろうから、それを我慢して聞いているのはかなり辛かったと思う。『これまでのやり方で上手く行かなかったんだから……伊藤さんの言うとおりやってみよう』と、皆をまとめてそれを愚直に実践したから結果が出た」

画像: ライフアンドデザイン・グループ株式会社 専務取締役 伊藤健

ライフアンドデザイン・グループ株式会社 専務取締役 伊藤健

 コンサルティングの前後で何が本質的に変わったのか。清水は「すべて」だと言う。「中でも一番変わったのは人間。今になって思えば、伊藤さんの指導は決して急進的なものでも過激なものでもなく、論理的に考えれば当然のことだった。でも以前のやり方を是としてきた者からすれば、やはりすべてを否定されるような感じがしたでしょう。当時の主だった社員の中で、残っているのは今や私だけです。現在、中核的なメンバーとして当社を牽引しているのは、コンサルティングがスタートした時期の前後に入社した者たちです。彼らはそれまでのやり方に固執することもないし、教えてもらうことをどんどん吸収して結果を出し、それが評価や処遇に結びつくという好循環の中で成長していきました」

 コンサルティングの起用や選択についても、清水の見解を聞いてみた。「コンサルタントといっても、そのキャラクターや強みは千差万別です。自社のタイプや課題、ニーズに応じて適切な選択をすべきだと思います

 経営コンサルティングの世界では、人事評価制度策定や営業力強化など特定のテーマを軸に活動する者、前職での経験を踏まえ特定業種の経営指導に特化する者、人間力を武器に社長の知恵袋として顧問的な立場から包括的に助言する者など、様々なスタンスのコンサルタントがいる。

 葬儀業にこだわらず、様々な業種で経験を積んだコンサルタントには幅広い視野と多業種での知見などの強みがある。ただ、火葬のダビアスをはじめ、自分たちなりに様々なアイデアを考案し形にしてきた清水が求めていたのは「葬儀やエンディングの業界に精通するとともに、業界における現在進行形の環境変化を踏まえた経営レベルの助言やサポート」だった。

 一方で、「葬儀業界には、例えば会員の募集やイベント運営など、特定のテーマで顕著な実績を挙げてこられたコンサルタントの方も少なからずいます。特定の課題にフォーカスし、その解決を求めている企業にとっては価値があるでしょう。ただその方の得意分野から離れたテーマや、経営全体の在り方について相談しても、必ずしも適切な助言が受けられない」と、業界のミクロなテーマにフォーカスする実践型支援についても、神奈川こすもすの求めるものではなかったと分析する。

 「結果的に、ビジネス一般についても葬儀社経営の各論についても見識を持ちつつ、葬儀会社の経営を中心に据えた助言が得られるという点で、伊藤さんのコンサルティングが私や当社の経営にとってベストマッチだったと言えるでしょうね」

 神奈川こすもすは、2018年度(2019年3月期)売上高16億63百万円、当期純利益1億57百万円を達成。今期はさらなる売上・利益の拡大を見込んでいる。

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ライフアンドデザイン・グループのコンサルティング事例 
- Case1.株式会社神奈川こすもす

【企業概要】
会社名 株式会社神奈川こすもす
代表者 清水宏明
所在地 神奈川県川崎市川崎区田島町12-9
設 立 2001年4月2日
神奈川県川崎市、横浜市を中心エリアとし、年間1,500件以上の葬儀を施行。自社ホール数は14ホール、従業員は100名(パート含む)※2020年1月時点

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- Case1.株式会社神奈川こすもす

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