トップインタビューvol.10(後編) 株式会社めもるホールディングス 代表取締役 村本隆雄氏

 仕事はストレスフリーでないといけない。社員が辞めていくのは自身を否定されるようなもの。人が辞めない会社にするにはどうしたらいいのか。「離職率3%」の働き方改革はそこから逆算した。

  

精神論では改革は進まない。
現場経験を生かして、どこを削ぎ落とすか見極める

──「働き方改革」に取り組まれ、社員の定着率が格段にあがったそうですが、実施されようとしたきっかけを教えてもらえますか?

「これは働いている人間が疲れているなと思ったことからで、離職率がピークのときに3割までいったんです。ただ、それは業界でいうと当たり前の数字で、ひどいところは半分がやめていく。仕事がハードだからと親方はすませてきたんですが、さすがにこれはもう通用しないと思った。サービス業で、まず働いている人間が満たされていないと、お客さんのために何かしたいという気持ちはわいてこない。それで、やるからには徹底してやろうと」

──それは社長になられてからですか?

「取り組んだのは3年前です。当時の月の実残業は平均45時間、一般職で40時間、管理職が50時間でした。公休の取得率も、月8日のうち、一般職は7割から8割。管理職は5割ぐらいだったんです。

 そこで目指したのは、残業時間ゼロ。公休取得率100%。それも決めたシフトどおりに休ませる。たとえば、水曜休みの人に出てもらい金曜に休んでもらうのはNG。

 12月から始めたんですが、二か月前から役員の間で議論しました。当然みんな無理だという。でも、やる。うちは決算期が4月なので、12月から五ヶ月間をトライアルとし、目標は残業20時間への抑制。休みの取得も100%にするという説明を、社員を集めてやったんです」

━━反応はどうだったんですか?

「社員が何を思っていたかというと、これはヤバイぞ、残業給を当てにして洗濯機を買っちゃったよ。だとか、クルマのローンはどうなる、とか(笑)。口にはしないけど、そういう目をしているのは、こちらもわかる。そこで『残業は減らすけれど、手取りは減らさない』と言ったんです。

 つまり『みなし残業』をかける。いま45時間残業しているうちの30を加算。差し引き15時間ぶんは減るけれど、それは我慢してほしい。でも、残業していた時間が自分の時間になるメリットはあるでしょうと。

 それで質問が出てくるんです。『社長、みなし残業はトライアルの間だけですよね?』と」

──出るでしょうね。

「5月以降みなしはかけないけれど、基本給をベースアップさせる。トライアル期間中に、残業を削減できたぶんだけ基本給を高くする。たとえば20時間に抑えられたら、45-20=25がベースアップ。10時間に削減したら35時間ぶんをアップさせる。どっちが幸せかといったら、どんどん残業を減らしたほうがいい。そう説明した。

 結果、4月末の段階で12時間ちかくまで残業を減らすことができたんです」

画像1: トップインタビューvol.10(後編) 株式会社めもるホールディングス 代表取締役 村本隆雄氏

 一口に「減らす」といっても、具体的にどうすれば減らすことが可能だったのか? 村本さんは「これには、いろいろあるんです」とニンマリする。

「もちろん精神論じゃ落ちてこない。僕は現場の経験があるので、どこを削ぎ落とせばいけるかは肌感覚でもっている。あきらかにこれムダだよねというのは。いちばん大きいのは、移動時間です」

──移動時間ですか?

「都内はわかりませんが、北海道の葬儀だとプランナーは何回も訪問します。

 まず、受注ですね。一度社に戻って、見積書もろもろを作成して届けにいく。会葬礼状の原稿ができると確認のためにそれを持ってうかがう。ひとつの葬儀に最低でも4往復、多いと5、6回往復する。

 どこの葬儀屋さんもそうですが、片道が30分とすると、最低移動に要する4時間が労働時間になる。だけどクルマの中で何をしているかというと、ラジオを聴いていたりする。ここに何の生産性もないでしょう。こんなのはやめたほうがいい。『じゃあ、どうやってやるんですか?』となる」

──どうされたんですか?

「まず最初に伺ったときに、タブレットをお客さんに預けるんです。葬儀が発生した時点で、うちからタブレットを貸しだし、受注後のやりとりは『これでやりましょう』と、LINEを使ったやりとりにする」

──LINEですか?

「そうです。これでクルマでの往復が必要なくなる。しかし、そうすると現場のプランナーから反論が出る。『葬儀というものはそういうものじゃない。何度もお客さんのところに足を運ぶから信頼されるんだ』と。

 そんなことは百も承知なんです。僕もやってきましたからね。『でも、そこを削ぎ落としたからといって、お客さんの満足度はぜったいに下がらない』そう言いきったんです」

 ベテランになるほど「何度も足を運ぶことが顧客の満足度につながる」と考えがちだが、一度立ち止まって考えなければと村本さんはいう。それは「大きな勘違い」。故人の家族は消沈した上に対応に追われ、何度も来られたらウザイと感じることもあるだろう。

「それで、もしもCS(顧客満足度)が下がるようなら、すみやかに止めるということで始めたんです」

 グループでは「顧客アンケート」をNEC系の調査会社にアウトソーシングしている。出てきた数字をみると、顧客満足度は変更後も下がらなかった。

──これで結果は出たと。

「そうです(笑)。もっというと、これは想定外でしたが、タブレットを預けると、お客さんは最初戸惑うんです。喪主がおばあちゃんだったりすると、これでやりとりしましょうというと、『ええっ!? 使ったことないわ』と不安な顔をされる」

──そうでしょうね。

「ですが、葬式のときには幸い孫がいる。この孫がね、おばあちゃんが弱った顔をしているのを見て使命感に燃え、iPad講座を始めるんです。『自分の気持ちをね、こうやってスタンプで表現できるんだよー』とかいって。そうすると、おばあちゃんも孫とのやりとりが楽しくなって二日間もいじりたおし、ご葬儀の間に何となく使えるようになっている」

──ほ、ほお(笑)。

「葬式が終われば、息子や孫は東京に戻っていく。おばあちゃんひとりにするのは心配だというので、息子が家電店でタブレットを買ってきて、『これからはこれでやりとりしよう』と渡すんです」

──いい話だなぁ。いっそ、村本さんのグループに家電販売も加えるといいのかも(笑)

「まあ当時は、そこまで行くとは思っていなかったですが。独居老人がどこの自治体でも増え、『見守り』が課題になっている。そうか。タブレットを配布することができたら見守りの体制がつくれるんじゃないか」


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